4. 虫ぱにっく
「あ…っ」
朝、登校してすぐのこと。
渡り廊下で亜久さんとすれ違った。
彼女の肩の上に、一匹の毛...が蠢いていた。
ゾッとした。
僕はアイツらが苦手だから。
「おはよう、百々瀬くん」
屈託のない笑みで挨拶をくれる亜久さん。
どうやら、”ヤツ”の存在には気がついていないようだ。
(なんとか取ってあげたい…けど!無理!絶対無理!!!)
なら、せめて──!
「えっとー…亜久さん。肩にアレが…」
「ん…”アレ”?」
ひッ!
肩に止まったヤツを見て、亜久さんは短く悲鳴をあげた。
そして、制服の裾をつかんで、なんとかヤツを振り払おうと激しく揺さぶった。
結果──。
「良かった…もういなくなったみたいだね」
亜久さんの肩からヤツが消えたのを確認し、僕は大いに安堵した。
どうやら脅威は去ったようだ。
結局僕は何もしてあげられなかったけど、とにかく良かった。
「あの…百々瀬くん…」
亜久さんが僕の顔をじっと見つめてくる。
大きなガラス玉のような綺麗な目で、じーっと。
どうしたの、亜久さん。
そんなに見つめられたら照れちゃうよ。
あ!
お礼なんかいらないからね。
僕はヤツに触れられもしなかった、臆病者なんだから。
…いや待て。違うな。
何かがおかしい。
どうして亜久さんの目はこんなに不安げなんだ。
どうしてこんなに悲しそうなんだ。
「さっきの虫が…」
「え?」
「今度は…百々瀬くんの顔に…っ」
この後の僕の、みっともなさ過ぎるリアクションについては。
あえては語るまい。