3. 我慢はだめ
体育の授業。
今日は男女混合のクラスリレー。
僕は運動が嫌いなわけでもなければ、運動神経が悪いわけでもない。たぶんクラスの平均並み。
だが、体の弱さは間違いなくぶっちぎりで最下位。しょっちゅうバテたりお腹を壊したり。
なので結局、体育の時間は苦手だ。
まさに、今だって──。
(ヤバい。なんか頭が痛くなってきた。ちょっと目眩もするし…)
リレーのバトンはたった今、僕の前々の走者に渡ったところ。つまり僕の走順も間もなくというわけだ。
なんとか抜けて保健室に行きたいが、どうしても言い出せない。
つくづく気弱な性格って損だなぁ、と痛感する。
ふと。
横に視線を送ると、同じ順番で走る予定の亜久さんが、心配そうな眼差しでこちらを見つめている。
顔色が悪くなってきたのだろうか。心配させて申し訳ない。
「ねえ、百々瀬くん。保健室行こう。我慢はダメだよ」
すっ、と亜久さんが僕の手を取る。
温かくて優しい手だ。
「百々瀬くん具合悪そうだから。ちょっと抜けるね」
先生に伝えておいて。
一緒に待機列に並んでいた男子に託けると、亜久さんはそのまま保健室まで付き添ってくれた。
「本当にありがとう、亜久さん。ごめんね、僕のせいで一旦抜けることになっちゃって」
「ううん。気にしないで」
やっぱり亜久さんはいい人だ。
柔らかな微笑を浮かべる彼女に、つくづくそう思う──
「じゃあ私、お手洗い行ってから戻るね。ちょうど行きたかったの」
バタン!
保健室の目の前にある、女子トイレのドアが閉まった。
ああ、なるほど──。
でも、、まあ、、、ありがとう。
…うん。