23. ののはの虜
「えー、続きまして。本年度よりPTA会長に就任された、亜久ののはさんよりご挨拶いただきます」
月に一度、開かれる全校集会で。
長い長い校長先生の話が終わったのち。
教頭先生の口から、ののはさんの名前が紹介された。
僕は少し嬉しくなった。
しかし。
散々立ちっぱなしの生徒たちからは、次々に不平不満の声が飛び出す。
”なにPTA会長って”。”マジで興味ないんだけど”。”いいから早く終わってよ”。
ああ。
分かる、分かるよ。
僕もかつては、正直PTAのことなんて全く関心がなかったから。
そう。
あの女性に出会うまでは──
「皆さん、ごきげんよう。ペーテェーエー会長の亜久ののはです」
ののはさんが壇上に姿を現し、その甘美な声を響かせた途端。
生徒たちの間に大きなざわめきが起こった。
”誰だよ、あの美人!”とか、”あの人がウチのPTA会長なの!?”だとか、”素敵ぃぃぃぃぃ♡”などなど…。
とにかく、体育館中が興奮と熱気に包まれた。
「こうして皆さんの前でお話しできるなんて。とってもオァーナーですわぁ」
先ほどまで校長先生が話していた時の、お通夜のような空気はどこへやら。
今や生徒という生徒たちが、ののはさんの演説を食い入るように聴いている。もはやカルト団体の集会みたいだ。
みんな、あっという間にののはさんの虜になってしまった。
こんなにも瞬時に、人を魅了してしまうなんて──。
圧倒的なカリスマ性と比類なき天性の魅力の持ち主。
やはり、ののはさんは普通の女性ではない。




