20. 梅雨のくせっけ
連日の天気は雨。まさに梅雨真っ只中。
この季節になると湿気のせいか、髪の長い人はお手入れが大変らしい。
僕の隣の席に座る亜久さんも、その例に漏れず。
いつもはまっすぐ整えられたストレートヘアが、今日はあちこちピョコンと撥ねてしまっている。
その様子が、どことなく間抜けな印象で。妙に可笑しい。
「…プフっ」
ヤバい、面白すぎる…!
僕は亜久さんに感づかれないように、下を向いてこっそり吹き出した。
「どうしたの、百々瀬くん。私の顔に何かついてる?」
ヤバい、バレてた…!!
焦った僕は慌てて誤魔化そうとするも。
その態度がかえって怪しまれてしまったようで──
「あ…!髪の毛でしょ!朝からボサボサなの気にしてたのに…!」
口をへの字にして、分かりやすく怒りを露わにする亜久さん。
だけど、亜久さんが動くたびに、頭の癖っ毛もピョコピョコと揺れて。
僕は、どうしても笑いを堪えることができず。
「いや、ごめん。でも…フ…フフっ」
「あーっ!また笑った!百々瀬くん、最低!!」
ついに、プイッと──。
亜久さんはそっぽを向いて、いくら謝ってもこっちを振り向いてくれなくなってしまった。
けど。
めったにお目にかかれない、亜久さんの怒り顔は。
ちょっと可愛かった…かもしれない。




