19. 走れとなり
(帰るべきか、少し待つべきか…)
僕は迷っていた。
今、校舎の外はバケツをひっくり返したような大雨。
いわゆる夕立っていうやつだろう。
学校から最寄りのバス停までは、徒歩でおよそ5分。
ほんの短い距離だが、この降りではずぶ濡れになること疑いなし。
かといって、ここで雨宿りをしていては、夕方のアニメに間に合わなくなる。
弟と一緒に見る約束をしているから、破るわけにはいかない。
う〜ん。
と、唸りながらしばらく考えあぐねていると。
そんな僕に声をかけてきたのは、クラスメイトの亜久さんだった。
「なにしてるの、百々瀬くん。帰らないの?」
「いや、ちょっとね。傘が無くって。どうしたものかなぁと…」
「私のでよければ貸してあげるよ!ちょっと待ってね──」
そう言いながら、亜久さんはカバンの中を探してくれている。
いつも物持ちのいい亜久さんのことだ。きっと予備の折り畳み傘なんかを持っているのだろう。
まさに僥倖。
ありがとう、亜久さん。本当にありがとう──
「はい、これ合羽。返すのはいつでもいいからね」
じゃあね、また明日!
亜久さんはそう言い残すと。自分の傘を広げ、降り頻る雨の中に消えていった。
……
やや逡巡した挙句。
僕は、合羽の入った巾着をカバンへしまった。
なんというか、越えてはいけない一線というか。
亜久さんの貸してくれた合羽を着るわけにはいかなかった。
僕の中の何かがそれを許さないのだ。
ゴロゴロ…ピッシャァン!
雷さえ落ちる豪雨の下。
僕は一心不乱に、バス停へ向かってひた走った──。