16. あざとい香り
「そういえば、亜久さんのお母さんに会ったよ」
HRが終わってすぐ、僕は亜久さんに今朝の出来事を話した。
”今朝の出来事”とは亜久さんのお母さんこと、亜久ののはさんに遭遇したこと。
ののはさんは類稀なる美貌と色気の持ち主で、僕はとにかく圧倒された。”美魔女”っていう言葉がこの上なく似合う人だと思う。
「本当に綺麗な方だよね、亜久さんのお母さん。ビックリしたよ」
えへへ、でしょ。
亜久さんは自分の母のことを褒められ、照れ笑いを浮かべた。
「ママはね、昔から美人さんで有名なの。たとえば、高校生と大学生の時にはミスコンで前人未到の三連覇を果たしたり。あと、今はコスメの会社を経営してるんだけど、”美しすぎる辣腕社長”って雑誌で特集されたんだよ」
ののはさんの華麗なる経歴を、まるで自分のことのように誇らしげに語る亜久さん。
その様子が心底楽しそうで。
なんだか微笑ましい親子関係だなぁ。
などと思っていると、
「まこちゃん、ちょぉっといいかしら…?」
噂をすれば何とやら。
教室の後方のドアから顔を覗かせたののはさんが、亜久さんを呼んでいる。
なにか忘れ物でも届けに来たのだろうか──。
その後。
しばらくして戻ってきた亜久さん。
彼女が隣の席に座った瞬間、酔いそうなくらいに甘い香りが僕の鼻を刺激した。
もしや、この香りって…
「私、いつものピァフュゥームつけ忘れてきちゃって。ちゃんとつけないと男の子に嫌われちゃうわよ、ってママに怒られちゃった」
てへへ。
亜久さんは無邪気にはにかんでみせる。
なるへそ。
いつも亜久さんから香ってくる、あのあざとい匂いは。
ののはさん仕込みだったのかぁ…。
こりゃ納得。