14. やさしい母
(あれ、亜久さんだ)
放課後。
校舎脇のピロティに亜久さんの姿が。
どうやら誰かの到着を待っているような様子。
彼氏でも待っているのだろうか。
「亜久さん。誰か待ってるの?」
「うん。もうじきママが迎えに来てくれるから」
ああ、そうだった。
僕は、はたと思い出した。
亜久さんは毎日、お母さんの車で登下校しているんだっけ。
我が家では到底考えられない話だ。
パートの仕事と家事をこなしつつ、弟の世話に父との喧嘩。僕の母は常に忙しい。
だから、亜久さんのお母さんはマメだなぁ、と思う。
「毎日送り迎えしてくれるなんて、すごいお母さんだね」
「だよね。ウチにはパパがいないから、代わりにママがなんでもしてくれてるの」
あ、しまった…!
なんだか余計なことを言ってしまった気がする。
僕は慌てて頭を下げた。
「ごめん。決してそういうつもりじゃ…」
「いいの、全然気にしないで。私もお父さんとはたまに会ったりしてるし。それに──」
亜久さんは少し間を置いてから、全力の笑顔で。
「パパはね、ウチの便利なATMなんだよ。ママがいつもそう言ってる」
……。
亜久さん?
そういう話はなんというか、、、触れづらいです。