11. 漫画家になろう
よし、決めた。
漫画家になろう。
美術の時間。
今日の課題はリンゴのデッサン。
僕は懸命に鉛筆を動かしながら、将来の夢を定めた。
漫画家。
すばらしい職業だ。
楽しく絵を描いて、それを皆んなに読んでもらって。そんでお金まで貰える。
まさに僕のためにあるような仕事じゃないか!
「皆さん、絵の進捗はどうですか?ちょっと見させてくださいね」
しめた。
美術の先生が見回りにやって来る。
こりゃ、僕の絵を評価してもらうチャンス──!
「あら」
僕の机の近くにやってきた先生は、静かに口を開いた。
「亜久さんと百々瀬くんは共作なのね…」
共作?僕と亜久さんが?
確かに亜久さんは隣の席に座っているが、共作などした覚えはない。
どういう意味なのだろうか。
亜久さんの描いたデッサンと僕のを、しきりに見比べる先生。
そして僕の絵を指差しながら、感心したように言った。
「とても良いわね。この潰れたリンゴ」
は!?
潰れたリンゴ!?
ちょ、ちょっと意味が分からないんですが、、、。
「亜久さんは熟れたての真っ赤なリンゴを、あなたは腐り落ちて潰れてしまったリンゴを描いたのでしょう?」
いえ、違いますが。
てか、”腐り落ちて潰れてしまった”って酷すぎませんか!!
「まるでこの世の摂理を表しているようね。一度は栄えたものもいつかは凋落してゆく。見事な作品だわ」
先生はひとしきり褒めると(?)、上機嫌で僕の前から去っていった。
…。
よし、決めた──。
漫画家になるのはやめよう。