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ある少年の夏の話

作者: 瀬戸しぐれ

チャットgptちゃんが提案した単語で文章を書いてみよう企画。今回の単語はこの3つ。

・望遠鏡

・片隅

・ひだまり

「君はあそこに混ざりたいと思うかい?」

僕の横に立った彼女は唐突に切り出した。

「あそこって、あの望遠鏡の周りに?」

僕たちから少し離れたそこには一台の望遠鏡があり、その周りでは同じ年頃の少年少女がはしゃいでいる。夏休み直前、今年一番の天体ショーであるペルセウス座流星群を見たい!と、クラスのリーダー格が騒ぎだしたのだ。唐突な提案に気が重くなる僕をよそに、乗り気な担任と同級生たち。こうして僕たちのクラスは、夏休みど真ん中の夜の小学校に集まることになったのだった。

「僕は別にいいや。博士はどうなの?やっぱり子供っぽいから混ざりたくない?」

僕は半分意地でできたような答えを返すと、隣のその子に尋ねる。物知りでクラスの皆から一目置かれているその子は博士と呼ばれていた。クラスの中でも地味な存在の僕とは何故か気が合い、何かと話をする仲だ。

「私は混ざりたいね」

予想外の答えに、僕は思わず声を漏らした。

「意外だ、博士の事だから興味はないって答えるかと思った」

「そんな事はないよ。だって、あの子が星空に興味があるなんて、君考えたこともなかっただろう?」

そう言った博士は、望遠鏡の側で一番はしゃいでいる男子に目を向けた。クラスのリーダー格で何かイベントがあると率先して前に出るその子は、確かに勉強よりも運動が得意な子だ。休み時間には校庭に飛び出して全力で走り回り、午後の授業はたまに居眠りすらしているような子。確かに僕も意外な提案に最初はとても驚いた。

「私もペルセウス座流星群が流れることは知っていた。だけど、実際に見たいとまでは思わなかったよ。私もあの子とはあまり話す事がないから、あの子が星に興味があるなんて知りもしなかった。多分それは、あの周りに行かないと分からないことなんだ」僕は思わず博士の顔を見つめてしまった。

「別にクラスの中心になりたいとかじゃなくて、あの子のことを知りたいからあそこに行きたいんだ?なんか変なの」

「そうだね、私も不思議な感じがするよ」

困ったように眉を寄せて笑う博士を見て、僕は驚いた。こんな顔をして笑う彼女を初めて見た、あの子は博士にこんな顔をさせられるのか、僕は出来ないのに。そんな思いが僕の中でぐるぐるする。

「それなら行けばいいじゃないか。簡単だよ」

僕はそう言って、顔も見ないで彼女の手を引く。そして望遠鏡のそばまで行くと、戸惑うように立ちすくんだ彼女の背中をそっと押した。

「博士も望遠鏡見たいんだって!」

珍しい僕の大声に、皆が振り返る。普段浴びることのない注目を浴びて、耳が熱くなるのが分かった。博士は僕以上に頬が赤くなっているのが、後ろからでもよく分かる。ざまあみろ。僕は少し気分がスッとするのを感じていた。


夏休み明け、新学期が始まった教室にリーダー格の彼の姿はなかった。担任の先生から、彼は急な家庭の事情で引っ越すことになったこと、最後に皆とペルセウス座流星群が見れて楽しかったと言っていたことが伝えられる。

教室の一番後ろ、廊下側の席からそれを聞いていた僕は、思わず博士に目を向けた。一番窓側、一番前の席に座る博士の顔は僕からはうまく見えなかったが、心なしかいつもより頬の色が白いように思えた。

こんな教室の片隅、遠く離れたところからでは、ひだまりの中にいる彼女の心は全くわからない。今、あの子はどんな顔をしているのだろう。出来れば、いつもみたいな大人びた顔で、なんともない、そんな風にいてくれないだろうか。あの時の彼女の気持ちが少し分かった気がした僕は、ずきりと痛む胸に気づかないふりをした。


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