MET@OUT-0000ー
あなたは自分の夢を叶えたことはありますか?
子どものころ、大人は私に言いました。
「あなたの夢は何ですか?」
その時は答えることが出来ませんでしたが、私が大きくなり、幸いなことに自分だけの夢をみつける事ができ、そして十年越しに大事な夢を叶えました。
『クリエイターとして作りたい作品を作る』
才能はないけれど、魂すら削り、注ぎ込んだ最高の一作をこの世に生み出す。
そんなわがままはな願いは、ゲンジツになりました。
作品を発表してからは連日話題となり、それはもう幸せな瞬間で、永遠に続けばいいのにと思っていました。
ですがそんな日々はゆっくりと終わりを迎え、先日、ふと気づいた時にはまた十年前と同じ日々を過ごしていました。
毎日パソコンの画面に向かい、シナリオを書き、キャラクターを描き、時には作詞をして、まさに充実。
それが今ではスマホで短い動画を観る時間と、数時間おきにエゴサを続ける怠惰な日々。
このままでは駄目だと分かってはいるのですが、それでも『今の自分』から抜け出すことが出来ずにいるのです。
新しい作品を。
前よりももっとインパクトのある。
魂どころか、この血肉全てを作品に注いで、次はもっと……もっと……。
しかしそんな作品を生み出す事なんて出来るはずもなく、想いばかりが先行し、いつしか積み上げたごくわずかな骨組みすら風化していきます。
夢を叶えたはずなのに、後悔なんでするはずないと思っていたのに。
年齢は30を超え、当たり前だと思っていた若さも今はなく、段々とアグレッシブさがなくなっていきます。
「せめて32歳になるまでには、誰かの人生を狂わすぐらいの作品が作りたかったなぁ……」
そう呟くも隣には誰もいない。
ただ一人海岸で黄昏ているだけ。
自分の後ろ。
明るく輝く街は前へ前へと進んで行くのに、今は自分の終わりを感じています。
ーああー
こんな『フィクション』誰が望んだのだろうか。
こんな『物語』誰が書き上げたのだろうか。
『現実の自分』は一体どんな人生を送っているのだろうか。
こんなバイト生活ではなく、せめて正社員とクリエイターの両立ぐらい設定しても良かったのでないか。
『嘘の自分』であるのなら、せめてこんな惨めな結末じゃなくても良かったのではないか。
何を言っているのか。
誰に言っているのか。
これもあれも全部全部。
先日、自分のセカイがとある『クリエイターという名の神様』によって生み出されたものだと知ってからは、自分がどうすればいいのか一層分からなくなってしまいました。
自分の人生は自分のもの。
そうだと信じていたはずが、実はどこかの誰かによって選ばされている。
そんなはずはない。
でも、あの日、あの時。
強く自分の人生を変えたいと願った瞬間、世界が暗転し、自分の目の前に現れた『ステータス画面』。
まるでゲームのような、アニメのような展開。
どんな内容が、どんな可能性が自分に隠されているのか。
心躍らせる中、クリエイターとしての私はふと思ってしまったのです。
<もし自分がセカイを作るのならどうするか>
クリエイターとして瞬間、瞬間を俯瞰するのはとても大事なスキルです。
ですが実際にゲームのセカイに生きているとしたら、それは常に深淵を覗いているようなもの。
このセカイが作りものだと、この想いが作りものだと、自分がクリエイターだからこそ、自分の後ろにあるのが街ではなく、もっと深い、それこそ『ナニか』がいるのだと。
そしてそのナニかとは多分、自分自身であると。
ステータス画面のUIデザイン。フォントのセンス。より細かく見るほど、どこかで見たことがあるような。いや、どこかでデザインしたことがあるような。
明確な証拠はどこにもありません。
ただ勘が働いているのです。
もしかすると……。
そう考えてしまうと、もう抜け出すことは難しく、そこから先は妄想だけが広がっていきます。
だって自分はそういった生き方をしてきましたから。
与えられたゲーム要素に飛びつけば、
真面目に考えれば考えるほど、気が狂いそうになります。
自分の立場に置き換えるとこれほどまでにおかしなものはない。
壊れてしまいそうな思考を落ち着けるために、こうやって海を眺めていると、また一つ浮かんできます。
もしかするとこれは夢ではないか。
あと少しすればこんな奇天烈な世界は終わって、いつもの日常が戻ってくる。
そうだ。戻るのだ。
こんなおかしなセカイなんて誰も認めない。
すると目の前に【EXIT】と書かれた画面が現れる。
私は迷わずその選択肢を選んだ。
瞬間、すべての枠が外れて行く。
セカイという枠も、身体という枠も、自分という枠も、全てすべて外れて、何者でもないゼロへと………。
了
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『いかがでしたでしょうか。私はあなたのお役に立てたでしょうか?』
ああ……。
これは凄い。
2024年05月01日12:43……。
沖縄県某所。
暗い自室で僕はAIに最高の小説を書いてくれと頼んだ。
結果、AIが即興で描いた小説は、僕にとってぞくりとするものだった。
自分以外の誰かがこの話を読んでも理解することは難しいだろう。
だからこそである。
誰も分からずとも自分にとって最高の作品。
魂すら震えるこの最高の作品こそが世界にとって必要なものなのだ。
理解されなくても、誰一人分からなくても、自分の中のセカイを変える力。
『では、この物語をベースにセカイを創り上げてもよろしいでしょうか』
「ああよろしく頼む」
すると画面上にコードが並んでいく。
その膨大な量のデータの渦に、もう一つセカイが生まれる。
作品とはなんだ。
セカイとはなんだ。
表現とはなんだ。
理解されずとも、理解していなくとも、生れ落ちる、枠のない世界。
『この作品の名前はどうしましょう?』
AIの問いに僕は答える。
「俯瞰も枠もない世界……MAT@OUT……それがいい」
『なるほど、とてもいい名前ですね。では、始めましょう。夢の先、人生の終わりから遡るあなたの生き様を』