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運命の出会い

 全人類の人口は約80億人。


 その中である人を見つけ出すことは極めて困難であり、奇跡でも起こさない限り無理なのかもしれない。


 でもあの日、僕たちは出会えた。

 

 そしてあれは奇跡なんてものではなく、運命で導かれていたとしたら……



 ******



 2024年、12月。寒さが本格化してきた冬の教室にて、僕の正面に座る佐藤先生の表情には苛立ちがあった。


「なぁ、お前はいつになったら進路が決まるんだ! ええ?」


「……すみません」

 

「すみませんで済んだらこっちは苦労しないんだよ。周りの皆はもう進路を決めているというのに。それともあれか、能力の心配か? そういえばお前、能力の詳細は誰にも言って無いもんな」


 ――能力。


 それは今から24年前に人類が目覚めた超常的力のこと。


 今まで架空でしか使えなかった異能や超能力に似た力が現実でも使えるようになったのだ。


 そしてこの世界はまさに『能力至上主義社会』


 言ってしまえば、能力の出来悪いで将来が決まってしまう社会だ。


 だからこそ、

『いい能力を持つ者はいい暮らしを、不遇な能力を持つ者は貧乏な生活を』


 そんなキャッチコピーができるほど。それがこの世界の現実であり常識となっていた。


 ただ僕にとって、進路選びに能力は然程重要じゃない。

 

 では何故僕が進路に悩んでいるのか?

 

 それは……


「人を探しているです」


「人?」


「はい。会ったことはないんですが、同い年でその人と同じ学校に通おうと考えているんです」

 

「ふっ、ふはははは……馬鹿かお前。この世界に何人の人がいると思ってんだ。分かれ離れになったならまだわかるが、会ったことのないやつになんて馬鹿馬鹿しい。それに仮に出会えたとして、そいつがお前のレベルより高い高校に行くなんて言ったらどうするだ。現実を見ろ現実を」


 ……現実。


「……分かりました。では来週の月曜日に進路表を出します」


「お、そうか。土日の休日で考えるんだな。分かった。くれぐれも後悔のないように考えろよな」


「はい。失礼します」


 そうして僕は重い足取りで教室を出るのだった。

 




「はぁ……。やっぱり現実を見た方がいいのかな」


 学校の帰り道、川沿いをゆっくりと歩いていた。不意に目を横にやると黄昏時ということで水面がオレンジ色になっている。


 今まで幾度となく彼女を探し回った。


 警察にSNS、能力で調べてもらったこともあったが、手がかりが少なすぎて見つかるものも見つからなかった。

 

 自然と自分の意思を逆らい涙が溢れてくる。


 もしかしたら、この世にはもういないなんてこともあり得るかもしれない。もしそうなら……


「あの……大丈夫ですか? 良かったらハンカチをどうぞ」


 優しくて、暖かな声音だった。


 俯いているからわからないが、見知らぬ人にハンカチを渡すなんて、お節介な人なのだろう。


「ありがとうございます。でも気持ちだけで十分です」

 

「ダメです。そのままだと目が腫れます」


 前の人は僕の腕を掴む。その行動に鬱陶しさが溢れてきた。


 僕は顔を上げ、何か言い返そうとしたが、


「え⁉︎」


 彼女を見た瞬間、僕の心臓は大きく高鳴った。


 そんなことがあり得るのだろうか、こんな近くに。


 僕はハンカチを受け取り、涙を拭き取ってから、しっかりと顔を確認する。


 ロングヘアーの水色髪に、整った童顔寄りの顔立ち。


 間違いなかった。もう会えないかと思ったけど、正真正銘、僕の探していた人がそこにいた。


 そうして僕はゆっくりと口を開いて……言った。


「会いたかった、雨宮奏(あまみや かなで)さん。ずっと探していたんだ」


 ……言えた。


 ようやく言えた。


 長年待ち望んでいたセリフを言うことができた。


 嬉しさのあまり心の中でガッツポーズを決める。


 さて、奏さんの反応は……うん?

 

 僕の思い描がく構図では「貴方、なんで私のことを?」とか「何処かで会いましたか?」だと考えていた。


 なのになんで目の前の彼女は刀を振り下ろして……

 

 そこで僕の意識は途絶えるのだった。


 


「……うん? ここは……」


 確か……川沿いで……


 そこで僕は思い出した。


「奏さん!! ……あれ?」


 知らない部屋だった。


 一面白い壁に勉強机とクローゼット。そしてふかふかのシングルベッドの上には可愛いくまのぬいぐるみと水色の毛布。


「と、いういうことは、ここは……」

 

「はい。私の家です」


 声のする方(部屋の入り口)を向くと奏さんが立っていた。ただ、物騒なものを抱えて。


「えーと、これはどういう状況ですか?」


「何故か、私の名前を知っている不審者を気絶させたけど、川沿いに放置するのは気が引けたので家まで運んだ。という状況です」


 普通は警察に引き渡すのでは、と思ったが手に持っている日本刀のせいで言えなかった。


「えーと、さっきは真剣ではなく、鞘に入れて殴打した感じですか」


「はい。初対面の人に会いたかったと言う不審者を制圧しただけです。あと斬られたくなかったら早く家から出てってください」


「じゃあ最後に、なんで僕を家に……襲われるとか考えは……」


「――斬りますよ」


 低く殺気の籠った声音に鳥肌が走った。


「玄関は出て右なので、早くしてください」


「はい。失礼しました」


 僕は颯爽と玄関に向かい感謝の一礼をして家を出るのだった。


 


 翌日、午前10時。


 僕は奏さんの家の前にいた。

 理由はただ一つ。


 奏さんと面と向かって話し合うためだ。


 昨日は殺気立っててまともに話せなかったけど、1日立ったから何とかなるだろう。


 そうしてドアの前に立って深呼吸。チャイムを押した。


 ――ピンポーン。


 高い高音を鳴らすが、中からは反応がなかった。


 奏さんの住むアパートはチャイムにカメラが付いてないから、中から確認することができ無い仕組みになっているはず。(憶測)


 寝ているのかな? でも規則正しい生活をしてそうな雰囲気だけど。もう一回押すか。


 そしてもう一回チャイムを鳴らすが……反応は無かった。


 出掛けてるのだろうか。でも、


 この胸騒ぎ、嫌な予感がするな。 


 僕の場合、胸騒ぎがする時は良くないことが起こりやすい。だからこそ、何もないといいが。


 すると、

「おや、どうしたんだい。雨宮さん家の前で」


 隣の部屋から50代ぐらいのおばちゃんが出てきた。


「あ、こんにちは。奏さんに用があって家を訪ねたんですけど」


「ああ、それなら今朝ゴミ捨てに行く時に見たよ。リュックにパーカー着てたし出かけたんだよきっと」


「そうですか。ありがとうございます」


「どうてっことないよ。それであんたは奏ちゃんの彼氏かい?」


「いや、違いますけど……」

 

「奏ちゃんはいい子だから大切にしてやんなさい。ほな、私スーパー行くから元気でなー」


 そうしておばちゃんは行ってしまった。


「嵐のような人だったな」


 まぁ、出かけたというなら探すことにしよう。


 そうして僕は町中を駆け抜けた。


 地域で人気のショッピングモール。

 

 ペンギンが人気の水族館。


 将又(はたまた)、街の隅にある公園まで。


 そうして六時間ぐらいだろうか。

 

 街を駆けたが結局見つからなかった。


「はぁはぁ……見つからなかった。やっぱりあのアパートで待ってたほうが良かったか?」


 奏さんの家の前で待っていればいつか帰ってくるだろう。

 でも、まだ胸騒ぎが酷く治らなかった。

 

「おや? 水瀬どうしたんだこんなところで」


「佐藤先生」


 昨日、進路相談をした佐藤先生がそこにいた。


「珍しいなお前がこんなところにいるなんて」


「先生こそなんでこんなところに」


「この公園は駅の近道になるんだ。通らないだけで十分ぐらい違う」


「そうですか。それで先生、今日水色の髪をした少女を見ませんでした? パーカーを着ているんですけど」


 こんなざっくりだとわかんないよな。


「見たよさっき」


「え? 本当ですか。どこに」


「あそこに廃工場が見えるだろう。あそこの前で制服を着た男子2人と話していた。まあ彼女は刀を携帯していたし、不穏な雰囲気も無かったから、大丈夫だと思って通り過ぎたけど」


 それを聞いた瞬間、僕の中の胸騒ぎがより一層強くなった。


「これはまずいかもしれない」


「え?」


「ありがとうございます先生。それじゃ失礼します」


「あ、待て。月曜日までに進路表を出せよな」


「分かってます」


 先生に一言言い残し、僕は廃工場へ全速力で向かうのだった。

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