『第四章〜始まり〜』
『第四章〜始まり〜』
トンネルを抜けた先は、西洋の豪華絢爛な建物が並び、栄えた街が広がっていた。
人も大勢いる。
街の奥の方にうっすらと宮殿のような建物も見える。
いったいどこに辿り着いたのだろうか。
―――ガシャン、ガシャン、キシンッ!―――
銀色の鎧を着た兵士が僕の目の前で立ち止まった。
目の前に立たれると威圧感がすごい。
こんな重そうな鎧を着て動いている人を初めて見た。
「アキラ様!」
不意に兵士が僕の名前を呼んだ。
「え?誰!?」
兵士は兜をとって、にこやかに微笑んだ。
黒く日焼けした肌に白い歯が宝石のように輝いた齢40才くらいのおじさんだ。
「私コミエンソと申します。」
正直言おう、全く分からない。
「えー...と、コミエンソさんはどうして僕のことを知っているの?ここへ来てからちょっと記憶が曖昧で...。」
「そうでしたね、これは失礼致しました。私だけがアキラ様のことを一方的に存じ上げているのです。気軽に“コミー”と呼んでください。」
「コミーさん、ここはどこなの?」
「ここは偉大なる騎士が集う地、カヴァリー王国!」
...騎士!
なんだかとんでもない場所へ来てしまったようだ。
コミーは続けた。
「私はある人からアキラ様の心に眠る騎士の心を呼び覚ますように申し付かっておるのです。」
「ある人?」
「えぇ。しかし、申し訳ございませんが、まだその方のことをアキラ様にお話しするわけにはいかないのです。」
「そうなんだ。でも、僕に騎士の心なんてあるのかな〜?」
「間違いなくありますとも!なんたってアキラ様はあの方の.........!いけないいけない!ついつい喋りすぎてしまうところでした。」
コミーは舌を出しておどけてみせた。
「ちぇ〜、そこまで言うなら教えてくれればいいのに〜。」
僕は口を尖らせた。
「さぁさぁ!早速鍛錬を始めますぞ!」
そう言うと、コミーは僕を連れて宮殿のある方角へ歩みを進めた。
途中、道行く人々が僕とコミーに注目していることに気付いた。
中には敬礼している人なんかもいる。
「コミーさん、どうしてみんな僕たちのことを見ているの?」
「はっはっはっ、気付いておられましたか。皆、アキラ様に期待しておられるのですよ。」
「僕に?何の期待を?」
「そのうち分かることでございますよ。さて、鍛錬場に着きましたぞ。」
そこは宮殿だった。
入り口には立派な騎士の像が2体飾られている。
「ここ、宮殿だよ?」
「はい、この中の鍛錬場で私がみっちり鍛えさせていただきますぞ!」
「えー!こんな凄い所で鍛えるの!?」
「もちろんでございます!騎士の心を呼び覚ますにはこの場所でなければいけません!アキラ様!それではまずこちらの剣を!」
そう言って、コミーは宝箱の中に大切にしまわれていた“七色に輝く剣”を僕に手渡した。
ギシーン!!
剣は地面に鈍い金属音を奏でながら勢いよく落下した。
「重くて持てないよ〜。」
「アキラ様、剣は腕力で持つのではありません。心の力、心力で持つのです。その方法を私がお教えしますので、ご心配なく。」
「よろしくお願いします!」
――【七色に輝く剣】を手に入れた。どうぐポケットにしまった。――
コミーに連れられて、僕は宮殿の中を進んだ。
宮殿の中はとても煌びやかで、通路には赤い絨毯が敷かれており、まるで物語に出てくる宮殿そのものであった。
宮殿は広く、部屋もたくさんあり、きっと一人で歩いたら迷ってしまうに違いない。
しばらく歩くと、コミーは “来客室”と書かれた部屋の前で止まり、扉を開いた。
「鍛錬以外の時間は、アキラ様はこちらでおくつろぎください。それでは、13時になりましたら、またお迎えにあがりますので。一旦失礼いたします。」
そう言ってコミーは一礼して部屋を出た。
部屋の壁にかかった大きな金色の振り子時計で時間を確認すると午前11時20分だ。
まだ1時間半ほどゆっくりできる。
それにしてもすごい部屋だ。
一人で過ごすには広すぎて少し寂しくなりそうだ。
とりあえずベッドに横になろう。
キングサイズほどのベッドに僕はダイブした。
想像していた以上にふかふかのベッドだ。
「ん〜!最高〜!」
僕は疲れていたのか、すぐに眠りについた。
―――場所は変わり、カヴァリー宮殿“王の間”。
コンコンコン。
誰かが扉を叩く。
「入るが良い。」
中から威厳のある太い声が聞こえた。
「はっ!失礼いたします!」
“王の間”に現れたのはコミーだった。
コミーは王の前で跪いた。
「そう畏まるな。面をあげよ、“騎士長”コミエンソ。」
「はい!」
コミーは返事をし、真剣な面持ちで王に視線を向けた。
「未来からの来訪者はどうだ?」
「これからみっちり鍛錬し、彼に眠る騎士の心を呼び覚ます所存でございます。」
「そうか。実際どれくらいの期間がかかりそうなんだ?」
「正確なところは分かりませんが、私としましては1ヶ月でなんとかしたいと...。」
「分かった。必ずや彼を目覚めさせ、“オズクーラ”の侵略を何としてでも阻止してくれ。」
「お任せください。」
「頼んだぞ、我が親友よ...。」―――
コンコンコン。
扉を叩く音がする。
僕は、あまりのベッドの寝心地の良さにすっかり寝てしまっていたようだ。
時間を確認すると13時。
そうか、もう鍛錬の時間だ。
コミーが迎えに来たのだ。
「ごめんなさい!すぐ行きます!」
勢いよく扉を開けると、扉はコミーの顔面に直撃した。
「はっはっはっ、こりゃやられましたな。」
扉が直撃したであろうコミーの鼻からおでこにかけて真っ赤になっている。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「いえいえ、お気になさらず。」
そう言うとコミーは宝石のような白い歯を見せて微笑んだ。
そしてコミーは僕を連れて“鍛錬場”と書かれた部屋に案内した。
「さぁ、今日からこの鍛錬場でみっちり修業しますぞ!まずは剣を持つ練習からです。」
「よし、頑張るぞ〜!...んん〜〜〜〜〜!!!!!.........はぁはぁ、ダメだ、 持てない...。」
「まだまだ始まったばかりです。頑張りましょう!」
18時過ぎまで練習したが、結局今日は剣を持ち上げることができなかった。
そして次の日も、その次の日も、そのまた次の日も朝8時から夜18時まで剣を持つ練習を繰り返したが、 剣は持ち上げられなかった。
「僕、センスないのかな〜?」
昔から運動神経には自信があった。
何をやってもある程度上手くやってきた僕からすると、 このことはかなりショッキングな出来事であった。
剣を振って戦うどころか、持つことすらできないなんて...。
「大丈夫ですぞ、アキラ様。それではまずこちらの短刀から練習してみましょう。私も昔、剣の鍛錬を始めた時は、この短刀から始めたのです。私のお古で大変恐縮ですが、良かったら是非。」
そう言ってコミーは微笑み、僕に“古い銀の短刀”を手渡した。
スッ、チャキンッ。
この短刀は簡単に持つことができた。
「これなら持てるよ!」
「これは驚きました!私はその短刀を持つのに1か月かかりましたぞ!素晴らしいセンスです!きっと、アキラ様の“絶対に剣を持つ”という強い心力が働いたのです。」
「そうなのかな〜?」
「そうでございますとも!次は、剣を振り、戦う練習に入りますぞ!」
「お願いします!」
そして本格的に剣の修業が始まった。
ブンッ、キン!キシンッ!
来る日も来る日も剣を振り続けた。
2週間ほど剣の鍛錬を続けたところで、コミーは僕に言った。
「アキラ様、剣技が上達しましたね。これなら実戦練習を始めても良いでしょう。この街から北東へ進むと“サヴァイヴ平原”という場所がございます。そこで経験を積むのに丁度良い相手がおります。私もサポート致しますので、共に参りましょう。」
「分かった!」
僕は“サヴァイヴ平原”へ行く準備をする為、一度“来客室”へ戻った。
そして、ふとステータスを確かめると、見たことのない項目が増えている。
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2023年9月10日AM11:13
Player アキラ
Level 10
HP 88
MP 66
ATK 31
DEF 20
SPD 35
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ATK、DEF、SPD。
これはおおよそATKが攻撃力、DEFが防御力、SPDが素早さのことであろう。
そして違和感に気付く。
Level10?
Level とは齢のことではなかったのであろうか?
それともこの世界では刻の進み方が違うのであろうか?
疑問が疑問を生む。
そういえば、ここ3週間ほど鍛錬に集中していて、自分の姿を見ることを忘れていた。
“来客室”にある鏡で自分の姿を確かめた。
...驚いた。
以前、鏡で自分の姿を映した刻と比べて、自分で見ても分かるほどに確実に成長していたのだ。
それは3週間で成長するであろう常識の範囲を超えていた。
まずは身長がどう見ても伸びている。
次に筋肉だ。
自分で言うのも何だが、この3週間コミーとの鍛錬によって鍛えられた肉体は、小学生とは思えないほど完成していて美しい。
この世界はまだ分からないことだらけだが、もう僕には未来へ進む、それ以外の選択肢はない。
僕は準備を終え、コミーの迎えを待つことにした。