水瀬雫は引き抜きたい4
「たくっ!雫!お前そんな奴だったか?寮に入れたからって追い出されないわけじゃねーんだぞ」
咥えていた棒付きの飴を、差し向けて寮母さんが言った20代後半でスラリとした身長に、鷹をも射殺すような鋭い目付き。柄は悪いが、寮のことを切り盛りする頼れるお姉さんだ。
「はーい」
たしかに、今日の自分はなんだかおかしい。YES!おっぱい!NO!タッチ!!を心情にしていなかったか?包帯で巻かれた左手を見つめる。この手のせいなのか?
「雫さーん遅れますよー」
「まってくださいよ!稲穂せんぱーい」
2人は学園に向かう。
「やれやれ」
寮母はそういうと、スマホを取り出す。
「おう!私だ。生徒が憑かれてる。そいつのメンタル次第だが、場合によっちゃ魔法少女の派遣が必要になるかもしれないから、準備しとけ。あ?忙しい?知るかボケ!かわいいうちの子になんかあったら、うちの寮の怖さを教えてやるかんな!おい、泣くなよ。板挟みでつらい?分かった、分かったって。今度また、愚痴聞いてやっから、な!頼むぜ!ったく」
彼女は飴玉をくわえなおし、呟く。
「さーてと、今日あたりかな。雫がこの学園のほんとの姿を知ることになるのは。逃げ出さず、帰って来るかな。んー、まっ、うまいもん作ってやっか。さーて、片付け、片付けっと」
寮の名前は山猫軒。かなり古い洋館を改築してある。元々はとんど、利用者はいないが、様々な事情を抱える生徒が入寮している。
寮から学園までは歩いて10分ほど、田舎道を田んぼを両脇に望みながら2人は歩いていく。
「雫さんは、学園での生活は慣れまして?」
「いえ、まだまだ分からない事ばかりです。ほんとにお嬢様学校なんですね。わたし、メイドさんとか執事さんとか初めて見ました。」
「あらあら、そうなのね。身の回りの事やスケジュール管理してくれるからいたら、助かりますわね」
「稲穂先輩はメイドさんや執事さんさいないんですか?」
「昔はいたんだけど。今はどこで何をしているのやら」
彼女は寂しそうな表情になった。
「辞めちゃったんですか?」
「まぁ、そんな具合ですね」
あれ?なんか悪いことを聞いてしまったかな。