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水瀬雫は引き抜きたい1

「やめてぇ!」

「ぐへへへ!良いでは無いか!良いでは無いか!」

時代劇さながらのセリフを言いながら、怯える少女に近づくフードをかぶった黒い影。あたりは静まりかえり、少女の震えが聞こえてくるようだった。黒い影はしゅるしゅると腕に巻いた包帯を取っていく。

「ち、近づかないで!」

腰が抜けてしまったのか、足に力が入らない。それでも、腕の力で這い蹲るようにして、少しでも距離を取ろうとする。「逃げても、無駄だよ」

少女は包帯が取り去らわれた後の腕を見て、絶句する。

「ひっ、な、なによ、その腕!なんなの!」

「…さぁ、ケツを出しな。そして、力を抜いて祈りな、お嬢さん。一瞬で終わるようにってな」

ぬらりとした腕は少女の方に伸びていき、足を捕まえ、ものすごいちからで引っ張っていく。

「いやぁ、いやああああ!!」

影は彼女を茂みに引きづりこもうとする。少女は必死になって、地面に指を立てるも、跡をつけるだけで、止まることは無い。

「尻子玉いただきまーす」

彼女の悲鳴は空に吸い込まれた。


「んなんじゃこりゃあああああああ!!」

エコーがかった少女の悲鳴は町中に響き渡った。悲鳴の主の女子高校生 水瀬みなせしずくは先日、ある高校に推薦入学したばかりの、新入生である。彼女はベッドから跳ね起き、腕をまくり自身の左腕を鏡に映す。


びっしりと手に生えた、魚の鱗のような緑色の肌。ざらざらとしたそれはうっすらと湿っていた。手首の辺りまで広がったそれをみつめ、雫は絶句した。

ほっぺたをつねろうが、殴ろうが、頭を洗面台にベッドバンドして、血みどろになろうが、その手は元に戻らなかった。

「なにこれ、なにこれ、なにこれ!!」

自分の意思で、握ったり開いたりできる以上、自分の腕としての機能は失われていない。だが、鋭い爪が生えあまりに醜悪である。爪の先には、昨日の夜につけたマニキュアがしてあり、超絶に違和感を感じる。


「かっぱっぱ!ざまぁみやがれっす」


謎の幻聴も聞こえてくる始末。ささやくような、か細いこえで、だが、確実に悪意があるかのような、少年の声。


「ひっ、だ、だれかいるの?!」

寮生活始まって数日ルームメイトは早々と部活を決め、朝練に行ったはずだ。それに男の声がするのはあり得ない。男子禁制の女の花園、聖泉学園である。野郎が見つかり次第、めった打ちにされ、パンツ1枚で吊るされ、さらされ、社会的に即・抹殺⭐︎されてしまう。


「かっぱっぱ!かっぱっぱっ!って、あぶなっ!!!」


正体不明の不気味な声がする方向に、雫はハイキックをかます。

「こ、こわいょぉ」


「はぁ、はぁ、皿がわれるところだったっす!怖がりながら、なんで、ハイキックを打てるんすか、この子」


見えない何かは冷や汗をかいた。ような気がした。


「や、やーい!当たってないっすよー!」


「ひ、まだ聞こえる!」

雫はあまり、怖い話は得意ではない。正直なところ苦手だ。幽霊、妖怪、心霊現象、好んで見るやつの気がしれないのだ。


若干怯えているようだが、雫が見えていないことを悟ると少し、気持ちを取り戻したのか。見えない声の主は調子に乗りはじめた。

「や、やーい!い、イモ女!い、色気なし!」

不気味なその声は移動しながら、囃し立てる。声が離れたり、遠ざかったりしている。

「ぺちゃぱーい!」

「あ?」

「ひっ!!!」

雫にとっての禁句を言ってしまったがために、声の主は地獄をみることになる。彼女の右手が、伸び、見えない何かをがっしりと掴んだ。

「かぱぱぱぱぱ!!割れちゃう!!われちゃうっぱ、ぱきっ!って言った!いま、パキッて言ったからぁ!!」

「だれが?なんだって?」

「かぱぱぱ!!!何つう馬鹿力!!ゴリラ、ゴリラなのか!!いやあああああごめん!ごめんなさあい!!」

ぱきょっという、音がして、手ごたえがなくなる。

「痛っ」

彼女の握った掌には尖った石のかけらのようなものがにぎられていた。

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