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~その後~

 その後、不死鳥さんが図書館で見つけた魔法書を元に、私達は次元移動について調べ始めた。


 この世界に骨をうずめる決心をしたとはいえ、恐らく行方不明の私を探し続けているであろう両親に私の無事を伝えたいし、もし叶うならば定期的に故郷への帰省だってしたい。

 また、私の故郷では結婚前には互いの実家に赴き、両親から結婚の許可をもらう習わしがあると不死鳥さんに伝えたところ。


「成る程、つまり我々は番い鳥になったとはいえ、まだ人の子らの言う『夫婦』としては認められていない、という訳だな。ならばまずはそなたの両親に会い、許可を得る事が最優先であるな。余の名付けはその後で構わぬゆえ、それまでゆっくりじっくり慎重に名前の案を考えていてくれ」


 と、相変わらず律儀な御仁であると思うと同時に、「たっぷり時間をやるから変な名前を付けないでくれ(意訳)」と言われているように聞こえるのは気のせいだろうか……。


 まあそれはともかくとして、だ。私には魔法の事はちんぷんかんぷんである。

 ゆえに魔法使いさんにも知恵をお貸ししてもらう事にした。

 手土産として大量の不死鳥の羽根を持参して。


 晴れて番い鳥となったご報告も兼ねて二人で訪問したところ、まさかの伝説の神獣ご本()の降臨に、魔法使いさんは盛大に腰を抜かしていた。


 見た目は若いとはいえ、ご老体である彼を毎度驚かせてしまい本当に申し訳ない……。


 そして魔法使いさん曰く。

 かつて異世界の者を召喚する儀式が失敗した際、異世界に干渉する魔法はその全てが禁術とされ、歴史の闇へと葬り去られた。異世界に関する魔法書もそのことごとくが焼き払われたが、この本の著者は魔法式を暗号化して記す事で自身が確立した魔法式を後世に遺す事に成功したようだ。

 ただ、この魔法の使用には膨大な魔力が必要となるそうで、恐らくは机上の空論止まり、当時の人々が実際に使用する事は叶わなかっただろう、との事だった。

 しかし神獣たる不死鳥さんの魔力量ならば何の問題もなく使用可能であるという。流石見よう見まねで異世界召喚を成功させただけの事はある。


 次元移動の魔法はあれよあれよという間に完成し、そしてついに、私は不死鳥さんと共に故郷の地へと降り立った。


 異世界への扉を開く際、私がこちらへ召喚された直後くらいの時空に繋げる事が出来た為、きっとまだそれほど騒ぎにはなっていないはずである。まあ直後とは言っても半日程度の誤差はあるけれども。私が最後の仕事を終えて職場を出たのは日が沈んですぐくらいの時間であったが、今は翌日の朝となっていた。


 玄関のチャイムを鳴らすと、バタバタとした足音と共に父と母が私を出迎えた。

 一晩中帰ってこない上に電話も繋がらない私を心配し、もう少ししたら警察に連絡しようかと話し合っていたらしい。あ、危なかった……。


 当然ながら二人はすぐさま私の傍らに立っている男に気が付いた。


 私達は説明した。

 これまで何があったのかを。彼と出会い、彼と夫婦になる事を望んでいる、と。


 大丈夫、私達はこの日の為に『娘さんを僕に下さい』の儀式を何度もシミュレーションしてきたのだ。


 そして――。




 不死鳥さんの頬に父の拳がめり込んだ。



 ――いやまあそりゃそうだよね!

 髪をド派手に染めてカラコンを入れた(ように見える)自称不死鳥のチャラくて電波なあんちゃんが、朝帰りの娘と共にやって来て「娘さんを僕に下さい」だもんね!

 しかも娘は既に洗脳(惚れ)済みと来ている。

 そりゃあ一家を守る大黒柱としては黙っていられまい。普段温厚な父でさえ思わず手が出てしまうのも自明の理というもの。


 きっと伝説の神獣たる不死鳥にグーパンを決めた罰当たりな人間は父くらいのものであろう。


 しかし殴られた頬の腫れが瞬く間に引いていくのを目の当たりにし、二人は目の前の青年が間違いなく人外の存在であると信じざるを得なくなった。

 また、私の髪が最後に目にした時よりも若干伸びている事に母が気付き、私が数十日間異世界で生活してきた事が見事証明されたのだった。


 その後、父と母が長年苦しめられてきた肩こりと腰痛を不死鳥さんが治してくれた事により、多少彼への心証が良くなった。


 この機を逃すまいと私は猛攻撃(説得)を仕掛けた。


 その結果、年末年始とお盆には実家に滞在する事、さらに数ヵ月に一回は父と母の肩こり腰痛の施療に来る事を条件に、ついに私達の結婚が認められたのだった。時空を繋げるのが大変そうだ……。というか伝説の神獣を施療師扱いするとは、肝が据わっていると言うか、図太いと言うか……。流石我が両親である。



 さらに再び異世界に戻った後の事。


 不死鳥さんがその魔力量と魔法の腕を魔法使いさんに買われ、なんと自分の元で助手として働いてみないかと誘われたのだ。勿論給料は出すという。

 ――神獣を部下として雇いたいとは、何だかんだで魔法使いさんも結構図太い気がする。私含め、不死鳥さんの周りはこんな人間ばかりだな……。


 とは言うものの。


 正直、私の薬草摘みの仕事だけでは収入に少々不安があった。今後子供が出来たら養育費についての心配も出てくるだろうし。

 不死鳥さんの羽根は高額で売れるとはいえ、あまり頻繁に売りに出してしまうと不死鳥さんがこの地にいる事が周囲にばれてしまう恐れがある。悪い人に不死鳥さんの身が狙われでもしたら大変である。

 幸い不死鳥さん自身も私にばかり働かせる訳にはいかないからと乗り気であった。


 ……それに、だ。


 不死鳥さんはとっても寂しがり屋だから。

 ()だけでなく、友人や仲間と呼べる存在を得る事は、きっと彼にとって救いとなるだろうから。


 ……魔法使いさんは暗殺者に狙われる恐れがあるデンジャラスな御仁ではあるけれど、彼の真名さえ外部に漏れなければまあ問題ないだろう。



 ――さて、両親から結婚の許可も得られた事だし、これでようやく不死鳥さんに名前を付けてあげられる。

 格好良くて独創的でスタイリッシュで、それでいて彼に気に入ってもらえるような素敵な名前を付けてあげなければ。


 その後は新婚旅行にも行きたいな。

 不死鳥さんの背に乗ってこの世界の色んな場所を見て回るのも良いし、電車に揺られながらのんびり日本の観光地を巡るのも悪くないだろう。


 なんと言っても時間は沢山あるのだ。


 不死鳥と番が織り成す日々は、まだまだ始まったばかりだ――……。

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