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~二日目~

昨日さくじつは失礼した。人の子らは先に自分から名乗るのが礼儀であったな」


 井戸の水を汲もうとドアを開くと、再びあの男が立っていた。

 ちなみに今は日が昇ってすぐの時間帯である。もしや一晩中ドアの前で待ち伏せしていたのだろうか。怖すぎる……!


 私はすぐさまドアを閉めようとしたが、同じ手は食わん、とでも言わんばかりにドアをがしりと掴まれてしまった。強引なセールスマンか。


「待て。余の話を聞け。決して怪しい者ではない」

「台詞も行動も一人称も全てが怪しすぎるわ!」


 よく「怪しい者ではないと言っている者ほど怪しい」という言葉があるが、これ程この言葉を体現した存在はそうはおるまい。


 だがこのままドアを挟んだ膠着状態では埒が明かないのも事実である。私はしぶしぶドアを開けた。そして男の姿を改めてまじまじと見つめる。


 目の前の男はかなり大柄な体躯をしており、彼の精悍なかんばせは、どちらかというと小柄なほうである私の頭1.5個分は上にある。程良く付いた筋肉と小麦色の肌をしており、それだけならば健康的なイケメンあんちゃんといった感じである――が。


 彼の目は非常に特殊な色をしていた。見る角度によって緑や青、さらにはオレンジ色に見え、まるで孔雀の羽根のようであった。

 腰まで届く長髪は太陽のごとき鮮やかな赤色だが、毛先に行くにつれてグラデーションになっており、末端は金色に染まっている。また耳や腕の一部など、体のあちこちに髪と同じ色の羽根らしきものが生えていた。

 ――そう、九割方は人間と同じ見た目をしているものの、残り一割により彼が人在らざる者であると決定付けられているのである。――この剣と魔法の世界にコスプレ上級者が存在するならば話は別であるが。


「で、貴方は一体何者なんですか?」

「余は不死鳥である!」

「ほぼほぼ人間(哺乳類)の見た目で鳥類を名乗られましても。所々羽根が生えてるだけじゃないですか」


 せめてカモノハシ程度の見た目になってから出直して頂きたい。


「嘘ではない! 今は番であるそなたに合わせた姿を取っているだけだ」


 自称不死鳥は語る。


 不死鳥は神獣と呼ばれる聖なる生き物であり、常に世界に一羽しか存在しない。

 500年の寿命を有し、寿命を迎えると炎の中に飛び込み、その中からまた新たな不死鳥として生まれてくるのだそうだ。

 また、常に一羽しか存在しない為、その番――すなわち伴侶には異種族が選ばれる。不死鳥が番を得ていわゆる夫婦となった状態の事を『つがどり』と呼び、番は不死鳥と同じ時間を生きられるようになるという。


 ――そしてその当代の不死鳥の番がこの私なのだという。


「てゆーかなんで私なんですか。私ごく普通の一般人なんですけど?」


 黒目黒髪でどちらかといえば地味顔。異世界に来てチート能力を貰った訳でもなければ、元の世界にいた頃から何か特殊能力があった訳でもない、ごく普通の現代日本人である。


 異世界人の私なんかよりもこの世界の住人を選んで頂きたいのだが。


「番となる者の魂は代々同一。つまりそなたら番は皆、初代番の生まれ変わりなのだ。先代まではこの世界に生まれていたのだが、どうやら当代の番であるそなたは異世界に生まれ落ちてしまったようでのう」


 まさか異世界転生要素まであったとは。前世の事なんてこれっぽっちも覚えてないんだけど。

 あ、でも私、どういう訳か幼い頃から無性に鳥が好きだったな。あれはもしかしたら前世の影響を受けていたからなのかもしれない。勿論、私の鳥に対する『好き』は恋愛のそれではないけれども。


「この世界ではかつて、人の子らにより異世界の者を召喚する儀式が行われたのだが、それは失敗に終わった。だがそれ以来次元の壁が緩くなってしまったようでな。当代の番に会いたかった余は、その緩みを利用しつつ試しにその召喚の儀式を真似てみたのだ。その結果、どうやらそなたはその時余がいた場所からは遠く離れた土地に召喚されてしまったようでなぁ」

「――って、私を召喚したのはあんたかぁ!!」


 何故私はこの世界に召喚されたのか、何故最初に立っていた場所が誰もいない空き地だったのか、全て合点がいった。


 この男が元凶か!


 にしても本来ならば失敗に終わるはずの儀式だったにもかかわらず、この世界に私を召喚するところまでは成功しているのだから、神獣というのはやはり凄い存在なのだろう。


「な、なんだ、番よ、何を怒っておる?」

「そりゃ怒りますよ! 家族と引き離されて無理矢理見知らぬ土地に連れてこられた上に一人ぼっちで放置されたんですから!」


 比較的平和で治安の良い世界であるとはいえ、あの時親切な魔法使いさんがいなかったら今頃どうなっていた事か。


「そ、そうか。突然群れから引き離した上に心細い思いをさせてしまってすまなかったな」


 家族を『群れ』って言うな。


「せめてそなたの世界の者と連絡を取る方法が無いか探してやろう」

「いや、そこはいっそ元の世界へ帰す方法を探して下さいよ」

「それはならん。そなたにはこの世界で余と番い鳥になって貰わねば」

「断固拒否します。異世界召喚と言う名の実質ただの誘拐犯となんで夫婦にならないといけないんですか!」


 番い鳥になれ、いやならない、の私達の押し問答はその日一日中続いたのだった。

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