さよならAugust
一年の中で一番感傷的になるのはいつですか?
朝起きて外を見ると、混じり気のない水彩絵の具を塗ったような綺麗な青空が広がっていた。空はいつもより高く感じる。やけに大きくて重そうな入道雲が異質な存在感を出していた。私はこういう「これぞ夏の青空」みたいな天気が好きだ。だって見ていて晴々するんだもの。
一日として同じ日は二度と来ない。そんなことずっと前からわかっている。でも、何故か毎年この日になると何故だろう、今日という日をかなり意識してしまう。
小学校の宿題の読書感想文と自由研究が大嫌いだった私は、夏休み最終日までなかなか手がつけられず母によく怒られた。泣きながら「来年は怒られないようにちゃんとやろう」と心に決めるのに、私は六年間毎年泣いていた。
別に明日になれば急に何かが変わる訳ではない。きっと明日も暑いだろう。似たような一日になるのはわかっている。だけど今日に限ってはもっと時間がゆっくり過ぎればいいのにと思ってしまう私がいる。
今年は花火を観なかった。観ても観なくても大して何も変わらないのに、今日だけは観ていないことを後悔してしまう。もっと夏らしいことをしておけば良かったと、まだ夏が終わっていないと思っている人には悪いが私は反省してしまうのだ。
コーラを水で薄めたような夕日を部屋から眺める。窓を開けると虫の鳴く声が聞こえ、秋の気配を感じた。夏の初めに考えたやりたいことが全くできていなくて心が騒つく。これも毎年の恒例のような気がする。
今年の夏も色々なことがあった。たくさん笑ったし、悪いことばかりじゃなかった。個人的には割と満足している。今は感傷的になっているが明日には平常運転になっている自信がある。
缶ビールを片手にベランダに立ってみた。夏の終わりの匂いがした。
「さよなら」
私は今年の夏に別れを告げた。