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悪役令嬢が天使過ぎて攻略対象が目に入らない!  作者: 宵宮祀花
二章◆没落ルートだけは回避したい
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お花の妖精さん

「ニーナ……!」


 目が合ったと思った瞬間、私はお花に包まれていた。

 なにを言ってるかわからないと思うけど、私もなにが起きたのかわかってない。全身をピンクの花びらが包んでいる。いい匂いもするし、少女漫画のトーンみたいなきらきらが背後に見える気もする。


「え……りしあ、ちゃん……?」


 私を抱きしめるエリシアちゃんの背中に腕を回すのなんて、何度もしてきたことのはずなのに、なぜか初めて女の子に触れる中学生男子みたいな気分になっている。


「エリシアちゃん……ドレス、見えないよ……?」


 どうにか勇気を振り絞って背中をとんとん撫でて宥めていたら、体を離して間近で私を見つめてきた。可愛い。


「思った通り、とてもよくお似合いですわ」


 頬を紅潮させて、目はきらきらさせて、弾んだ声で言われては謙遜する気も起きない。エリシアちゃんの言葉はまるで魔法のよう。

 ついさっきまで、馬子にも衣装って言葉は私のためにあったんだって思っていたのに。似合うってエリシアちゃんが言うなら、ちゃんと似合ってるんだって思えてしまう。


「こんなに綺麗なドレス着たことないから、緊張しちゃうな……」

「ふふ。きっと、すぐに慣れますわ」


 ぎこちない私と違って、エリシアちゃんはお花を纏った妖精さんみたい。

 ダンスパーティの会場がどれだけ凄いかなんて想像もつかないけど、エリシアちゃんはきっとどんなに豪華なホールでも見劣りしないって確信出来る。


「すごいなぁ……エリシアちゃんはどこから見ても可愛いね」

「ありがとう、ニーナ。あなたの言葉は、なによりも心に響きますわ」


 うれしそうに微笑んでから、エリシアちゃんはカミルさんに合図を送った。視線だけで指示を出して、それに答えるカミルさんの図には毎回驚かされる。

 まだこれ以上なにかあるのかなってドキドキしていたら、カミルさんがお高そうな箱を持って私たちの傍に立った。オルゴールにも見えるその箱は、蓋や留め金部分にも宝石がちりばめられていて、きらきらしている。

 寧ろこの空間できらきらしていないものが存在しないんじゃないかって思う。


 カミルさんが丁寧な所作で開いた箱には、目が潰れそうなくらい綺麗な髪飾が収まっていた。宝石で作ったお花なんて初めて見たし、真珠が雫みたいに揺れてて綺麗なだけじゃなく可愛さもあって、なんか、もう、どうすればいいかわからない。

 これを身につけたエリシアちゃんは、きっともの凄く可愛いんだろうな……って思っていたら、


「ニーナ様、パーティ当日にはこちらをお召しください」

「はぇ? わ、私……!?」


 まさかの私だった。


「わたくしが十四歳の誕生日パーティのときに身につけたものなのです。急でしたから、大事な髪飾がお下がりのようになってしまってごめんなさい」

「うっ……ううん、そんな! ていうか、ドレスだけじゃなくて結局なにもかも用意してもらっちゃって……」


 抑も自分で何一つ用意出来ないんだから、エリシアちゃんに頼るか給仕に紛れ込むしかないんだけど。ないんだけど……緊張する。


「お召しになってみますか」

「ひゃいっ!? えっ、で、でも……」


 エリシアちゃんのほうを見ると、お散歩用のリードを見た柴犬みたいな目をしている。つまり、期待で滅茶苦茶輝いている。


「……お、お願い、します…………」

「畏まりました」


 お願いした瞬間、ぱあっと笑顔になったエリシアちゃんの可愛さに、私の心は大の字でまな板の上に転がっているような気分になった。どうにでもしてほしい。

 ドレッサーの前に腰掛けると、カミルさんが丁寧に髪を結ってくれた。なにがどうしてそうなったのかわからないけれど、とにかく私は、格好だけならお嬢様らしい姿になっていく。


「ねえニーナ」

「なあに?」


 髪を弄ってもらっているのに振り向くわけにはいかないから、鏡越しに答えた。鏡面もそれを縁取る装飾も、ドレッサーの机の部分や引き出し、果ては脚も全部埃一つなくて、綺麗に磨かれている。


「ニーナは、今度のパーティで踊る相手は決まっていますの?」

「ううん、全然。だから教室で言われてたとおり、給仕さんに紛れ込むのもいいかなって思ってたんだよね。私、裏方作業とか細かい仕事は結構好きだし」


 そう答えたらエリシアちゃんが黙ってしまった。なにかいけないことでも言っちゃっただろうかと、不安になる。

 どうしようもなくて、せめて声だけでもかけようかと思っていたら、カミルさんが髪を結い終わったと言って後ろから身を引いてくれた。


「エリシアちゃん……?」


 見上げた顔はどこか寂しそうな、泣き出しそうな表情をしていて、私は居ても立ってもいられず、その白い頬に手を伸ばした。


「ニーナ……あのような言葉、真に受けなくて宜しいのですよ」

「……うん。わかってるけど……私が平民で、ドレスも持ってなくて、踊る相手もいないことは変わりないし、そこは見栄張っても仕方ないんだよね」


 正直、自分に変な見栄がなかったのは良かったと思う。

 平民で貴族の学園に放り込まれて、更に見栄っ張りだったら地獄どころじゃなかった。私にはこの環境で歯噛みするほどのプライドはない。馬鹿にされたとしても大半は事実でどうしようもないことだから、なにを言われても「ですよね」としか思わない。


 私はそう思ってるんだけど、エリシアちゃんはあまりそう思ってないみたいだった。

 なにかじっと考え込んでいて、でもその内心は教えてくれなかった。

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