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悪役令嬢が天使過ぎて攻略対象が目に入らない!  作者: 宵宮祀花
OP◆ようこそ、イストリア学園へ!
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メスゴリラ、異世界に降臨す

 子供の頃、私は男子よりも背が高くて、小学校ではそのことでずっとからかわれてた。背の順っていう並び方なんか大嫌いだった。誰が言い出したのか、もう覚えてないけど、いつの間にか付けられてたあだ名が……メスゴリラだった。


『おい、メスゴリラ! 無視してんじゃねーよ!』

『うほうほ言ってみろよ!』


 私の周りを囲みながら囃し立てる男子たちが鬱陶しくて、一度派手に殴り合いの喧嘩をしたことがあった。でも、叱られたのは私だけだった。


『女の子なんだから、暴力なんてふるっちゃだめじゃない』

『だって、あいつらが私のこと……』

『ほら、その言葉遣い。そんなふうだからいけないのよ。お淑やかにしていれば男の子にからかわれることもないんだから』


 叱られる私を見てすぐ傍でくすくす笑ってるのに、先生は見ないふりをした。私一人が我慢すればいいと思ってたから。中学に上がっても私は地元の学校に行ったから、小学校時代のあだ名がそのまま広まって、身長が前から数えたほうが早くなってもメスゴリラで定着したままだった。

 高校は県外の学校に通ったけど、小中の九年間で培われた男嫌いはそう簡単には直ってくれなくて、男子とは目も合わせない、ろくに会話もしない、我ながら嫌なやつだった。高校で初めて会った男子たちは無関係で、何の罪もなかったのに。


 根暗で、嫌みで、お高くとまったムカつくやつ。それが、高校での私の評価だった。


 私の味方は、どこにもいなかった。

 あるとき、乙女ゲームという存在に出会うまでは。


「……あれ? これ、RPGじゃなかった」


 出会いは偶然。パッケージの絵で女の子が主人公のロールプレイングゲームだとばかり思って買ったゲームが、実は乙女ゲームだったのが始まり。

 最初は気が進まなかったけど六千円もしたし、ゲームに不備があったわけじゃないのに返品するのも悪い気がしたから、取り敢えずやってみようと思った。


 タイトルは、月の聖女と太陽の騎士。ヒロインは聖女の印とやらを胸に刻んで生まれてきた、純度の高い魔力を持った平民の女の子。本来は貴族令嬢や王族のお姫様に刻まれているはずのそれが、なぜか平民の娘に刻まれていることで注目を浴び、貴族の子女が通う全寮制の学校に特別編入することから物語が始まる。

 最初は皆『聖女』というフィルターを通してヒロインを見ていたけれど、会話を重ねて仲良くなっていくうちに、ヒロイン本人の魅力に惹かれていく、みたいなお話。ルートはキャラごとにあるけど、大まかな展開はだいたい同じだった。

 そしてどのルートにも、お邪魔キャラとして公爵令嬢のエリシアが出てくる。彼女は、高慢でいかにもライバルって感じのお嬢様ではなく、儚げで可愛らしい、放っておけない感じのお嬢様だ。普通に描けば可愛らしい感じの子になりそうなのに、シナリオが絶妙な切り取り方をしていて、凄くヘイトを集めるのが上手い。たぶん、か弱いふりで男の人を手玉に取るタイプが大嫌いな女子は画面を殴りたくなるんじゃないかってくらい。


 ――――で、私は、見事にハマってしまった。


 ゲームの中の男子たちは、ヒロインに変なあだ名を付けて馬鹿にしたりしない。一人の女の子としてふつうに扱ってくれる。中にはひねくれたキャラもいたけど、話していけばちゃんとその理由も教えてくれて、一方的に詰られるばかりじゃない。

 会話をしてくれる。名前を呼んでくれる。優しくしてくれる。ライバルも時々イラッとくる瞬間はあるけど、彼女は彼女なりに一生懸命で、周回するうちに可愛く見えてきて、気付いたら出番を待ち構えてる自分がいた。


「毎回思うけど、人気商品のポップは真実だった……」


 そのポップとジャケットだけ見て、間違いで買ったけど。でも、後悔はしてない。寧ろ新しい出会いに感謝してるくらい。

 何回目かも知れないエンディングを眺めながら、私は思いきり溜息を吐いた。


「はあぁ……明日から現実だ……つら……」


 月曜日なんか爆発すればいいのに。それか、学校が爆発すればいいのに。

 そんなことを思いながらぼんやり画面を流し見していると、メッセージウィンドウに、いままで見たことがないメッセージが表示されていることに気付いた。


「なに……? 特別ルートに進みますか? って……何周かしたら開く隠しエンドとかのルートが開いたのかな?」


 やりこみゲームは大好きなので、私は迷わず『はい』を選択した。

 その瞬間、


 ――――ようこそ、イストリア学園へ!


 毎回オープニング後のタイトル画面で聞こえる攻略対象たちによるタイトルコールが、なぜかテレビ画面からじゃなくすぐ近くから聞こえた気がして。同時に、いきなり画面が真っ白に発光した。もう画面から離れてご覧くださいどころじゃない。目を開けずにご覧くださいレベルに無茶な眩しさで、私は思わず目を瞑った。


 そして、次に目を開けたとき、私は知らない天井を仰いでいた。

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