プロローグっぽい何か
ある日、日本から12人の猛者が消えた。
希望の光のその先の世界。それは運命か。はたまた…
2年前、世界中で話題となったMMORPGゲーム『アナザー・ディスイングレーション』通称『アナディス』
このゲームはいわゆる「クソゲー」だった。
その理由のひとつとして、難易度の高さがあった。
コンマ1秒単位でのスキルの使用、装備の必要レベルの高さ、必要な職業の取得難易度の異常さ、即死攻撃の多さ、初心者への優遇措置無し。
最初の内はそれが醍醐味だと言って、ユーザーは増えていたがインフレについて行けず挫折して引退するユーザーはどんどん増えていった。
結局、2年後の今ではネットでゲームの名前が上がることはほとんど無くなった。
だが、未だに『アナディス』の攻略を続けているクランがあった。
クラン ー 12人まで入ることが出来る一種の組織で、誰でも作ることが出来る。
クランのメンバー同士は、お互いの場所にワープする事が出来る。更にそのクランに所属している全員に効果がある「クランスキル」と言うものも存在している。また、クランに所属していないと受注出来ないクエストもある。
つまり、アナディスにおいてクランに所属する事は必須事項のようなものだった。
まぁそれは置いておいて。
全ワールドクランランキング1位を死守し続け、2位と大差をつける「最強」と言っても過言ではないクラン『アナディス運営撲滅し隊』(通称「死体」)。
この12人は数少ないアナディス界隈のヒーローだった。
運営が繰り出す数多のクソイベを次々と攻略していき、周回も難なくこなしていった。
そしてある日、運営によるアップデートで追加された『時の神殿』の第九十階層エリアボス、12人戦闘のバランスブレイカー『ワールド・デス・スライム』の討伐を目前に控えていた時の事。
「5秒後に即死」
「「「「(*`・ω・)ゞビシッ!!」」」」
「盾1秒遅い」
「スマソ」
「クレ【起死回生】残しとけ」
「o(*・ロ・*)oOK〜」
『死体』のクラマスであるAliciaから11人にチャットで指示が飛ぶ。
相手は未だ討伐記録無しの紛れもない「最強」。
形態変化で効く攻撃が変わったり、バリアを張ったり、相手へのデバフがバフに変わったり、とにかく滅茶苦茶な相手だ。
だが、何度もやれば、行動の先が見えてくる。
パターンを理解することが出来る。
かれこれ2、3日はトライアンドエラーを繰り返している。
数百度目の挑戦によってようやくここまで来た。
もう失敗は許されない。
「火力集中!」
「やってるよ!」
「11秒後の形態変化【魔法特化】に合わせて第2と交代」
「「「りょ」」」
「ロゼたそ行ける?」
「モチモチモチモチモチモチモチモ(ノ)`ω´(ヾ)」
「おkー」
「やば、mp切れ」
「予想より早い、即座に第2と交代」
「「「りょ」」」
「槍もつか?」
「もう無い」
「ならゴリ押せ!」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」
ついに大量のHPを削り切り、『ワールド・デス・スライム』は動かぬ塊と化した。
「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「(・_・)ダマラッシャイ」
「はい。」
「あー、マージで強かったわ」
「今までで1番強いわ」
「それ毎回言ってる奴なw」
「(*´・ω・。)σそれな!!」
「クッソ疲れた」
「(・ω・`*)ネー」
「あいつ寝落ちしてね?」
「ほっとけ、いつもの事やろ」
「運営許さん!」
「ボコ&ボコにしてやるぁ!」
「しかし、最後ロゼたそナイスやで、あのミリ残し全部1人で削りきったようなもんやからな」
「だろ?感謝しな」
「さすが脳筋」
「素晴らしい!( ̄∇ ̄ノノ"パチパチパチ!!」
「おいおい褒めても何も出ないぜ?」
「それな」
「あ?」
「すいませんでした」
などと感傷に浸る12人。
ただパソコンの前でゲームをしていただけでは無いような疲労感が現実の12人を襲っていた。
その時、倒したはずの『ワールド・デス・スライム』の身体が光輝き始めた。
「?イベントか?」
「いつものエンディングもどきだろ」
毎回『時の神殿』のボスを倒す度に流れるエンディングもどき。それと似ている。
だが、今回は少し違った。
「あれ?俺の画面からメニューが消えたんだけど」
「あ、俺も〜なんならマップも消えたけど?」
「あ、私も消えた」
いつもと少し変わっているが、別に気にする程の事でもないと割り切って無視した現実の12人は、『ワールド・デス・スライム』の光に飲み込まれた。
覚えているのは、そこまでだった。
そこから先のことは、思い出せなかった。