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深淵へと誘うコール音   作者: ひな月雨音・菜須よつ葉/アドバイス・武 頼庵
1/2

コール1

 内科病棟のナースステーションに配属になった新人看護師の私、咲坂弥生は、毎日指導看護師と一緒に駆け回って仕事を覚える日々を送っていた。


 そんなある日、先輩看護師にカルテの整理を言いつけられた。


 現在はPCにて管理、そして、書かれたモノでも確認できるようにと、ダブルチェックできる体制をとっている。


 少し面倒なことだけど、手書きで書かれたカルテを落とし込む作業。誰にでもできる物だと、その時はちょっと心外に思っていた。


 PCとカルテをにらめっこする事半日──


 私はあることに気づいた……。



「あの……先輩?」



 私は真ん中のテーブルで準備をしていた先輩の方をくるっと向いた。



「どうしたの? 咲坂さん」



 ちょっと首をかしげて、佐藤先輩が振り向いてくれた。



「この方なんですけど……」


「ん?」



 手に持ったカルテを先輩の目の前に広げて見せる。



「あぁ……藤崎さんね。見ちゃったんだ……」



 なぜかそのカルテを見た瞬間、青い顔をした先輩。



「この方って、今は病棟にいらっしゃらないですよね? ファイルに整理しておきますか?」


「…………」



 全く反応してくれない先輩。



「先輩?」



 先輩はどう話をしようかと考えているように見えた。



「いいえ……藤崎さんは今もいるわよ……」


「え? でも……何号室ですか? 私、気づきませんでした。すいません」


「いいえ。あなたのせいじゃないわ。そうねぇ……藤崎さんは確かにいらっしゃるのよ…………今も」


「え?」



──()()



 その時私は先輩の言葉に、少しだけ違和感を覚えた。


 でも、先輩はそれ以上のことは言わず、とにかくそのカルテはそのままにしておいてと、元の棚に戻すことを言い渡され、私はその通りにした。


 心の中ではどうしてなのか引っかかったまま──


 それからしばらくは、そんな事があった事など忘れるくらい忙しく動き回り、仕事にも病棟の患者様にも慣れていった。


 そんなある日──


 私は日勤で先輩が休憩中であるため、一人でステーションの中に居た。



 カラン……。



 小さな音が部屋の中に響く。


 音のする方へ顔を向けると、近くに置きっぱなしだった先輩のプラ製マグカップが床へと落ちていた。


 ──あれ?


 たしかそのマグカップは、さっきまで私の前に置いてあったはず……。


 でも何かの拍子に私が落としたのかもしれないと、気にすることをやめた。



 『あなたも……』


 「えっ?」



 何か聞こえたような気がしたが、マグカップを拾い、またテーブルの上に置いた。


 今度は落ちないように真ん中の方へ。


 それから数十分が経っただろうか。



 カラン──



 その時、私は見た。


 長い髪を胸の前まで垂らし、白い服を着た女の人を。そしてその人の足下に、先輩のマグカップが落ちていた。



 「あ、あの……」



 その女の人が振り向いた。でも顔は良く見えない。眼が黒々としていることは確認できた。


 マグカップを拾うために、恐怖心を抱きながらも近寄って手にした。そして顔を上げるとそこにはすでに、人影がなかった。



 「今の人って……」



 私は確かに見たのだ。


 その話を先輩方にすると、みんながみんな同じ表情をして見せた。



 「あなた……見ちゃったのね……」



 その中の一人の先輩看護師が、ぼそっと言うのが聞こえた。


 その日から私は、寝るたびにその時の顔が浮かんでくるようになった。


 先輩たちに相談しても我関せずで、誰も相談にのってくれない。そんな日々が続き、ついに新人として初めて、夜間勤務に入ることになった。


 日中に寝ておかなければいけないのに、()()()の顔が浮かんで眠れなかった。そのまま眠い顔を何とか奮い立たせて病院へと向かう。



 そして──



 時計の針が日をまたごうとしていた頃にソレは起こった。



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