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1話

 「宰相、元帥、二人ともこの度はよく働いてくれました」


 副王が感謝の言葉を述べる。


 「ブライア公国の侵略をはねのけ、さらには逆に攻め入って降伏させるとはさすが予言の英雄。これからもこの国の発展、平和のために力を貸してください」

 「もちろんですよ!俺たちに任せてください!」


 万里は満面の笑みで勢いよく返事をした。まったくのんきなものだ。しかし、万里は宰相という立場のため直接戦いに参加したわけではないが、万里の協力がなければこの戦争はさらに難しいものになったに違いない。これくらいの自惚れは許されるだろう。

 

 「御意」


 思いに耽ってしまったので少し返答が遅れてしまった。

 その後も、恩賞授与式は貴族や騎士など上流階級の人間に対しても粛々と行われていった。

 

 

 王の間を退出し、二人で並んで歩く。万里は興奮気味に口を開いた。

 

 「ついに宰相として仕事ができたって感じだよ」


 万里か興奮気味に話す。


 「人の役に立つってやっぱいいね!これであとは冷たい視線を送ってくる貴族も少しは優しく接してくれるようになれば最高なんだけどなぁ」

 「それはどうだろうな。自分があちら側の立場だったら、これだけではまだ万里を認められないような気もするけど」


 貴族からしてみればたまったものではない。ぽっと出の外来人に要職を奪られたのだから。


 「やっぱりそうかなぁ。まぁ、いきなり自分の上司にどこの馬の骨か分からないやつがなったら反感を覚えるのは当たり前っちゃ当たり前かぁ」

 

 万里は宰相。自分は元帥の職を射止めた。とは言っても、こちらも好きでなったのではない。宰相、元帥などといういかにも偉そうな役職に急に就けと言われても大抵の人は躊躇するだろう。


 ただ、あの時、副王の申し出を受ける以外に方法はなかった。この世界に迷い込んで、何も分からない状態では生きていけない。誰かの助けが、庇護が必要だった。その点で、副王の話はまさに渡りに船だったが、そのために元からいた家臣団、特に貴族の一部に疎まれているというわけだ。


 「今、生きてられるのも、こうして反感を買っているのも全部『予言』のおかげだな」


 副王が、王国民が信じる『予言』。

 それは、自分たちがこのトルリア王国を大陸制覇に導く賢者だというものだった。




 あの日自分たちがこの世界にやってきた日。門の向こうの人影は、甲冑を身にまとった兵士…としかいえない人々だった。


 「お城までお連れいたします」


 と、ひときわガタイのいい兵士が言うと、二人ともあっという間に囲まれた。


 「何が起こっているんだ…?」


 ただただ困惑を覚えた。思考が追い付かない。万里のほうを見てみても、恐怖に怯えた表情、というよりは唖然とした表情といったところか。おそらく自分も同じような顔をしているのだろう。


 「混乱しているでしょうが、安心してください。乱暴な真似はいたしません」


 先ほどの兵士が幾分かやわらかい口調で話した。全く知らない人間の言葉が果たして信用できるのかは疑問であったが、兵士に囲まれ逃走もロクな抵抗もできないならば敵対するのは得策ではない。


 「分かりました、お願いします」


 そう言ったのは万里だった。万里がこちらの顔を覗き込んできたので、うなずいてみせた。

 兵士に囲まれて歩くという、ものものしい状況に不安にはなったが、その兵士たちが自分たちと同じを使っていることには少し安心した。どういう訳なのかは知らないが、意思疎通ができるのは大きい。

しかし、

 

 「何で自分たちはいま城に連れて行かれてるんですか?」


などと聞いても


 「それは副王からお話がございます」


の一点張りで結局何も分からなかった。


 目的地であると思われる城に着くと、兵士たちに代わっていかにも執事、といった格好をした人物に先導された。ここでも先ほどと同じ質問をしてみたが、答えてくれなかった。

 そのまま何か荘厳な雰囲気の大きい広間まで案内されると、これまた荘厳な衣装に身を包んだ見目麗しい女性が玉座の脇に立って待っていた。


 「ようこそおいでくださいました、二人の賢者よ。私はこのトルリア王国の王を補佐する、副王という位に就くものです」


 自分たちが賢者?トルリア王国?何を言ってるんだ?などとこちらの疑問は尽きないが、それより先に副王が質問を投げかける。


 「ところで…あなた方の服装はこの辺りでは見慣れないものですが、どこから来たのですか?」


少し間を空けて答える。


 「…おそらく…こことは別の世界から来たのだと思います。いや、来たというよりは迷い込んだような…」


 我ながらなんとも歯切れの悪い答えだ。しかし、そうとしか言い様がない。すると万里が


 「申し遅れました。自分は万里と言います。そして彼が藍斗です。こちらからお尋ねしたいのですが、私たちが賢者とはどういうことなのでしょうか?」

 

 と自己紹介とともに質問した。よく物怖じしないものだ。正直自分では名前を伝えるというところまで頭が回らなかった。


 「あら、申し訳ありません。説明がまだでしたね。実は十年前に、ある『予言』があったのです。十年前にこの国を訪れた予言者が残した『予言』、それは『十年のち、二人の賢者来たりて、この国を富ませ、大陸の覇者とならしめん』というものでした。そして今日、実際にあなた方が来られた。まさか異なる世界から来たのだとは思いませんでしたが…」


 なるほど。偶然、この世界に迷い込んだ自分たちが、偶然、予言によってこの王国に召し抱えられる。非常に都合のいい話だ。だが、疑問が生じる。


 「そんなに簡単に予言を信じていいのですか?自分たちが役に立たないばかりか、害を与えてしまう可能性だってあると思いますけど...」

 「確かに、疑問に思うのも仕方ありませんね。この地では昔から予言は信じられてきました。予言によって、災害の犠牲を最小限に抑えられたことは古来から何度もあります。そして優れた人材が現れという予言も何度も当たっています。正直、私も今まで半信半疑なところはありましたが、兵士たちに今日、壁の門を開けさせたところ予言通りに二人の人間がいると知らせを聞いてから、確信に変わりました」

 

 いきなり知らない土地にやってきて、右も左も分からない中でこの話が出てきた。ならばこれは流れに乗らざるを得ないのだろう。


 「「分かりました。どうかここで自分たちを仕えさせてください。必ずお役に立ってみせます」」


 万里の意見を聞くのを忘れていたが、二人で全く同じ言葉を発した。二人とも考えは一緒だった。こうしなければ明日生きてられるかどうかも怪しかったのだ。とりあえず難しく考えずに、まずこのトルリア王国に仕えること。それが最善手のはずだ、と自分に言い聞かせて。


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