邪神とおでかけ
代わり映えしない邪神の日常が懐かしい…
邪神マント越しにわかる膨張の一途を辿る苗床植えタネことぐりどんのじわじわと真綿で首を絞めるようなホラー感が非常につらい。
ぐりどんの成長に隠れているが実はラストもまだまだ大きくなるつもりらしい。じわじわと成長しており安定感がマシマシである。
『昔はこーんなにちっちゃかったのに…ずいぶん大きくなって』
とゆび先で豆粒ほどの大きさを表現して子供をからかうウザい親戚のおじさんみたいなことしても、ラストに関してはリアル豆粒だったのでその通りですねとしか言えない。
あの一粒の黒豆から豆柴が生まれ…
あのときは可愛かったな…ほろり。
涙が出ちゃう。
まあ、いまのボリュームたっぷりの安定感抜群、いい匂いのするモッフモフワンコ(多分ヒグマより大きい)もとてもよいので、これからも俺のクッションとして励んでほしい。
「あんまり大きくなるとラストの上で寝れなくなるから大きくなるのも程々にしてくれよ」
そうフッカフカの腹毛に埋もれながら言うと「ワヒュン!?」と聞いたことない声でびっくり顔をされた。
ラスト語録に新語が発生した瞬間である。
意味は不明だ。
急に俺をペロペロしだしたラストを宥めつつ、ラストの背中の謎石から生えてるぷにぷに触手を一本にしたら何処まで伸びるのかチャレンジをして遊んでいる。
質量保存の法則ってなんだろな、っていうレベルでニョロニョロ出てくる。
延々出してるとラストはちょっと迷惑そうな顔でこっちをチラチラ見ている。
「そんな顔しても可愛いだけだぞ。しかしどうなってるんだこのぷにぷには…めちゃくちゃ長いな…すごいなー、ラストはすごいなー」
後半棒読み気味にラストを褒めた。
ここまで出したんだから最後まで出し切りたい。
しかしそんな俺の雑な褒め言葉をお気に召さなかったラストはしゅるんっとぷにぷに触手を引っ込めてしまった。
「あっ!あーー!!あーぁ、あぁ…」
容赦がない。このがっかり感を言葉にしたかったが俺の口からは「あ」の四段活用しか出てこなかった。
ボッチを極め過ぎて語彙が低下しているのだ。
しかし俺の退屈を一番理解している超お役立ちおくちフローラルワンコのラストは、慰めるように俺の顔をペロペロしたあと、ぷにぷに触手を使って俺を中に浮かせてころころポンポンアクロバティックに空中で転がしてくれた。
たのしい。
俺大人なのに高い高いされてあやされている…などと冷静になってはいけない。
俺は中ずりにされながら換気のために時々…いや、極稀に開けている邪神社会の窓ジジジッとあけて外を見た。
外気はひさしぶりだ。
モグラトニーを追い出して以来か…。
いや、追い出してはいない。旅立ちを見送ったのだ。
「相変わらず暗いな〜」
星ひとつない空、ここは何処なんだろう?
邪神となった俺が外に興味をむけたのは初かもしれない。
縁に手をついて身を乗り出すとチャック部分のギザギザが地味に手に当たって痛い。
「ん?」
下に何かぼんやり光るものがみえるような…?
普段とは違う角度だからこそ見えた地面らしき存在。
よくよく目を凝らすと花が咲いているのが見えた。
「ラスト、ラスト!!ちょっとぷにぷに伸ばしてくれ、ちょっくら下降りてくるわ!!」
なんだ地面あるんじゃないか、高さ的にここは二階よりは上っぽいけど、お役立ちワンコのラストのぷにぷに触手を使えば余裕で降りられる。
キュフルウンって不安そうに鳴くラストにお前は降りてくるなよ!って念をおした。
部屋にもどる手段がなくなるからな。
ラストはいかにもしぶしぶという体だったが、ぷにぷに触手とぷにぷに触手を網?籠?みたいに絡ませ俺が乗りやすいようにしてくれた。
ぷにぷに触手で作ったぷにぷ触手籠だ。
ぷにぷにぷにぷに言い過ぎてぷにぷにがゲシュタルト崩壊しそうである。
「今からこれをぷにハンドと呼ぼう」
ラストはちょっと首を傾げて「キュフシュルキュウゥン?」とないた。
うむ、出たな意味が解らんわんこ長文。
同意したとみなそう。
つうか…どういう鳴き方したらその音出るんだ?
俺は思わずラストの口の中を確認した。
口に手を突っ込んでも絶対噛まないよく出来たフローラルマウスわんこ。
こんな無体を働いてもアガアガしながら俺の手をぺろぺろするだけだ。ぺろぺろされたとしても俺の手がフローラルになるだけなので俺は躊躇わずラストの口の中に手を突っ込み覗き込む。うむ、ベロが長い、あと歯が鋭い。
お前で実はちゃんと猛獣してるんだな。
俺が満足するまで口の中を弄られたラストは…最終的に舌をダランとたらし寝っ転がりながら「キュヒッ…キュヒンッ…キャヒーン!」と後ろ脚をビクッビクッと痙攣させていた。
これは撫ですぎた時に良くなるやつだ。
まあ、ちょっと目がイッてるが尻尾は高速回転しているので大丈夫だろう。
その後ちょっと疲れた感じのラストはワウ?ワフン…と時折鳴きながら何度かぷにハンド籠を出したり引っ込めたりして調整した後にガウッ!!と吠えた。
どうやら上手く出来るようになったらしい。
こちらを見るおめめがキラキラだ。
尻尾もちぎれるんじゃないか?ってくらい振っている、うむ、俺は出来る飼い主だからな、判ってるぞ。
俺は再度ラストがキャヒーンと鳴くまでモフモフなでなでした。
ラストは舌をだらんと垂らし、ビックンビックンしながら痙攣している。
いつか昔飼ってた犬みたいに嬉ションしそうでちょっと怖い。ほどほどにしよう。
さて、予想よりも数倍器用だった俺のお役立ちワンコの作ってくれた籠は練習の結果出し入れも素早くなった。
ちょっと、いや、かなり投網漁に見える。
…見た目はともかくぷにハンドに単体に手で捕まるより楽だし、安全性は段違いで高そうなので細かく考えるのはやめた。
どうせ誰も見ないしな!
「オーライ、オーライ、オッケーいいぞラスト完璧だ!」
ぷにハンドをぎゅっと握るとと網…いや、籠はピタリと止まった。
見上げた空には社会の窓。
空に突如として存在してるチャックが空いている。
そこからラストが心配そうな顔をして覗いている。うむ、今日も俺のワンコがかわいい。
社会の窓から出てきている…となると今のラストは…やめよう、俺は品の良い邪神として生きるんだ。酒池肉林!とか複数人でくんずほぐれつ!とかそういうのはしないタイプの邪神として生きるんだ。
サクリと小さな音を立てて俺は赤紫色の花の咲く地面に降り立った。手にはラストのぷにハンドをバンドのように巻いている。
何が起きるか解らないからな。
邪神降臨。
そんな言葉が一瞬脳裏に浮かんだけれど、厨二病にも程があるだろうということで口に出すのは自制した。
よくよく見ればそこは地面ではなく蔦のようなものの集合体の上だった。
めったに歩かないよわよわの俺の足がひさしぶりの傾斜に負けてグネッとなった。
邪神、捻挫したってさ。
地味に痛い。
やばい、俺、動かなさすぎて老化している。
こんな段差でよろけるなんて姫属性が転化されてしまう。
いやだ!邪神的恋愛は断固拒否だ!!
絶対ろくでもないことしか起きないと断言できる。
邪神的恋愛リアリティショーなんて誰特なんだよ!!と叫ぶ未来なんて絶対来てほしくない。
恐ろしすぎる。
書籍の欄に邪神健康法って本があったような…部屋にもどったら邪神カタログを見てみよう。
身体を…身体を鍛えねば!!




