邪神とタネ 3
結局土は手にはいらなかった。
黒土竜に土を出してもらおうなんて夢のまた夢だった。
黒土竜召喚は失敗であったと言ってもいいだろう。
俺は失敗を認められるタイプの邪神である。俺には邪神としての伸びしろがあると思おう。
相変わらず生き物との相性が最悪である。
むしろ超絶お役立ちおくちフローラルわんこなラストがすご過ぎて今後ラストを超える生き物に巡り会える気がしない。
今も俺のクッションになっていながら背中の謎石から生えた透明なうす紫の触手でせっせと部屋の掃除をしてくれている。
ほうき、ちりとり、はたき、ぞうきんの3つが同時進行で掃除をしている。
掃除の手順としては間違っているが、俺は細かいことを気にしないタイプの邪神なので、俺の代わりにやってくれてるからヨシ!だ。
思い返してみるとラトニーことモグラトニーのボディは黒くなかったな…あのミュータントなお口が衝撃的過ぎて他が完全に目に入っていなかった。
黒土竜と言ってるくせに何処らへんが黒なのか…謎のままあいつは旅立ってしまった。
きっと今頃元気にやっていることだろう。
モグラトニーの召喚と鯛の中の鯛を観賞魚とした事以外はこれといって変化のない日常だった。
鯛の中の鯛は日がな一日水の底に沈んでいるだけだ。
が…
ここにきて苗床植えタネことぐりどんが急に大きくなってきている。
いや、正確にはタネを埋めた苗床の方が大きくなっている…だが。
見た目邪神カラーのドングリだったし、完全に植物になると思ったんだよな。
芽が出て膨らんで、花が咲いたらなんちゃらポンって言うじゃん?
だから芽が出るかと思ったのに…なんか苗床が膨らみはじめた。
せめてちっちゃい双葉とか出てこないのか?
おれは期待のドキドキとはちょっと違うドキドキを感じた。
このドキドキは苗床の見た目がアレだからに他ならない。
大きくなると細部が…細部が見えてしまう。
まったくもって見どこれ生き物の中身っぽいものも混じってるし、なんか血とか肉をぎゅっと固めたようにもみえる…
「…キモい…」
おれはこっそり手に持っていたラストのぷにぷに触手をぷにぷにした。
ホラーが苦手なおれにとってぐりどんとの同居はかなり荷が重い。
ラストのぷに触手は俺にとって完全にライナスの毛布となっている。
俺の精神を不安定にさせている原因のタネ植え苗床ことぐりどんのどくっどくっと脈打ち時々…
いや深く考えるのはよそう。見たくないのについつい視線が吸い寄せられてしまう。
モザイク必須のそれは前より…皮を剥いで数回叩いて踏みつけた猫に似ている。
うむ、つまりは猫に似ていないってことだ。
それからもぐりどんは日々育ち、とうとう最近は赤黒いいぬちゃぬちゃが赤黒い微もけもけになりつつある。
微妙なのは所々黒い毛が生えているからだ。
ぱっと見ミンチにされた生き物みたいで心臓に悪い。というか…
「うっ…」
いま気付いたけどちっちゃい「め」がでてた。
芽が出て欲しいとは思ってたけどこっちのめが出るとは思わなかったな…。
そう、「め」違いではあるものの、目が出た。芽ではなく目が。
うわーいウレシイなぁ(棒読み)
赤黒い謎の物体の中でギョロンギョロン元気に動く目…。
ほら今も痙攣してるみたいに小刻みに動いて…ぐりんって……ひんっ怖い。
あんまり見たくない(控えめな表現)ので俺は邪神カタログから邪神マントを取り寄せた。
邪神布よりマントの方が安かったのはなんでだ?
原材料より市販品の方が安くなる不思議。
それをそっとぐりどんにかけた。
ほっと息を吐く。
視覚刺激が減って俺の心は少しだけ平和を取り戻した。
今の精神状態ならやさしい言葉もかけられるほどだ
「大きく育てよ」
見えないって凄い。
例えるなら◯したゴキを片付けられなくてそっとティッシュを被せて放置したときの気持ちである。
そう、恐怖の根源はまだそこにある。
俺はラストのぷにぷにを手放せなさそうだ。
それからぐりどんは邪神布の下で日々少しづつ形を変えた。
時々パキッとかヌチョッとか言うから本当に布をかけておいてよかった。
暗い所で成長すると視力が正しく育たないと聞いたことがあるが、俺の目に自動モザイク機能が搭載されておらず、想像しなくてもグロ確定なのでホラーが苦手な俺のために申し訳ないが視力は犠牲になってもらおう。
パッと見は音がなって動く奇妙な布のオブジェであるが…最初はちょっと猫っぽかったので猫になるのをかなり期待していたが
今の状態だと猫の顔だけの可能性がある。
妖怪つるべ落とし猫バージョン。
それはそれでよい。
いや、とても良い。
しかし大きな顔だけの場合、もしかしたら必要になるかもしれない邪神メガネのサイズが顔と合わないのではないか…と今からちょっと心配である。
そんなことをおもいつつ、俺は今日もラストの腹毛に身を埋めた。




