番外編 Greed
我が主は少し遊び心が強すぎた。
我が名によけいな「ん」を着けていたためそのひと文字を飲み込むために我は長き時を要した。
たった一文字。
だが、その一文字に我は決して勝てぬ力の差を見せつけられた。
我より弱い者ならばその力ごと喰らいつくしてしまおうとするのが我が性。
我は喰らいつき、喰らいつき、その度に格の違いを見せつけられた。
神という圧倒的な存在に牙を剥くその行為、奪おうとするその考えこそが強欲であったと理解したその瞬間…
我は強欲の名を手に入れた。
そう、最初から何もかもが神の掌の上であったのだ。
尊き御方は我の成長に必要なものを惜しみなく与え給うた。稀有なる受肉の苗床、我に相応しい主の漆黒のマント。
「大きくなれ」
その望みを聞き我は抱え込んだ受肉の苗床をひとつのこらず我が身に変えた。
そして我が誕生を待ちきれぬと邪神成長促進剤まで与えてくださった。
ああ、これほどまでに我は求められているのかと感動に打ち震えた。
しかし我が主の深淵なる思考を我はまだ理解しきれていなかった。
我が主は我に「かわいい」の呪を与えた。
不可解なその呪は我が行動を縛る。
2つあった受肉の苗床とともに我は奇妙な2面性を持つこととなった。
だが、そう近くない未来で我は必ずやこの体の支配権を我がものにしてみせる。
我が意思は我だけのものだ。
わが主は受肉が完了した私の新たな名を認め、そして我は主の権能の一部までも使うことが許された。
やはり私は誰よりも特別な存在である。
私は目を伏せ喜びに打ち震えた。
しかし頬を撫でる柔らかな指先は我が心を見透かしたようにひやりと冷たい。
ぐいとおとがいをつかまれ私は我主の瞳をひたと見つめた。
闇を凝らせたような光のかけらも存在しない漆黒の瞳。
「やりすぎるなよ?ぐりどん」
ひやりと冷たい声にぞくり、と背筋が粟立つ、喰らい、飲み込んだ筈の名が再び我を縛った。
ぎゅう、と首を絞められたかのような苦しさに思わず吐息が漏れる。
主の求める形に矯正されていくのを感じた。
主の指が震える唇を撫でた、全て知られている、我の傲慢さを。
全て分かったうえで与えられ、そして縛られている、全ては我が主の掌の上。
ぶるりと震えた、強欲な我ごと赦す我が主の深い愛に。
「我が主がそれをのぞむならば」
欲しい、この主の全ての愛が。
ならば、奪い、そして捧げ続けよう。
我が主にふさわしい全てを。
共に立つ我にふさわしい全てを。
私は強欲の名を冠する邪神の遣いとして
私は強欲の名にふさわしく邪神に成り変わった。
愚かなる人間どもが神を畏怖し逃げ惑う様を我が主に与えられし王座に座して見るのだ。
主はそのような瑣末事に目を向けることなく日々を過ごしていただく。
主の願いを叶えられるのは我のみなのだから。
我が名はグリード。
強欲の名を自らの手で掴みし邪神の使徒。




