番外編 Gluttony
その瞬間、おなかが減ったことに気付かされた。おなかが減っておなかが減っておなかが減って。
そうぼくはすごく、おなかが減ってるんだと。
とても懐かしい名前をきいた気がする。
そしてすこしだけ、思い出した。
おいしい、ごはんを ぼくだけがたべ られなかったこと を
ずっと ずっと たべ ら れなかったこと
かた いぼくは やわらか い ハンマーで たた かれ てもこわれない。
た くさん たくさん はたら いて
でも ご はんは ひとくちも たべられな かった
たべ られないまま ぼく は ぼくを おえた
遠い遠い記憶。
思い出して、けれどすぐに空腹にかき消された。
とても美味しそうなモノが眼の前に置かれたから。
食べた。
おいしい。
そのあとぷにぷにとした柔らかいものも食べようとしておこられた。でもこっそりと少しだけ食べた。
おいしい!
そしてまた差し出されたものを食べた。
おいしい。おいしい。おいしい。
頭を撫でられた。叩かれてばかりだったぼくの頭。
優しいひと。
名前をくれて、記憶をくれて、美味しいものをくれたひと。
邪神。ぼくの主。
決して食べてはいけない人。
そして、僕は外に出された。
外にはたくさんの美味しいものがあるから食べておいで。
そういって落とされた先は一面の花。赤くて紫のあまくて綺麗でおいしい花。
けれど足りない。これだけじゃ足りない。
くんくん。
匂いを嗅ぐ。大きな爪を使って地面を掘る。
ざくざく、ざくざく。
土の中にはたくさんの味があった。
食べて食べて、そのうち土の上でいろんな足音がする場所についた。
4つ足のや2つ足のいきもの、おおきいのも小さいのも柔らかいのもすじばっかりなのも。
たくさんの味がある。
食べて食べて、でもまだ足りない。
噛んで砕いて飲み込んで。
噛んで砕いて飲み込んで。
繰り返す。
足りない、まだ足りない。
もっと、もっと。
美味しいものがたくさんあるときいたのに、邪神さまからもらった食べ物の方がずっとずっと美味しかった。
だから探す。
たくさん食べて、食べて、食べて。
気づけばぼくの体はもぐらじゃなくなっていた。しっているよ、これは竜とよばれるものの姿。
ぼくはモグラトニーと邪神さまから呼ばれてたのに。
もぐらじゃなくなったのなら、この名前ひとつくらい食べてもいいよね。
ばくりと与えられた名前をひとかけ食べた。
美味しい、美味しい、おいしい!!
とろりと甘くていい匂い、こんなに美味しいものがすぐそばにあったなんて!!!
もっと、もっと食べたい!!もっと、もっと、もっと!!!
ああ、けれど、これ以上食べたら邪神さまとの繋がりが消えてしまう。
ぐう、と腹が鳴る。
名前を食べたら余計にお腹がすくようになってしまった。
ぼくは欠けてしまったから、もう二度と満たされることはないものになってしまったから。
ずっと満たされない。
ずうっとお腹が空いている。
優しい邪神さまのおいしいを超えるものが見つからないから。
だから食べる、おいしいを探すために。
ぜんふ食べ尽くしたらあの場所に戻れるから。
ぼくのなまえはグラトニー、美味しいものを探しているんだ。
暴食の使徒…なの?
ねぇ、それより食べていい…よね?




