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邪神な日常  作者: ちかーむ


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20/28

番外編 Wrath

「あなたは何も分かってないわ」

あきれたように笑う笑顔を愛していた。


愛する人を守るためには誰かが行かねばならない。

平和は人の犠牲の上に成り立っている。


わかっていた。

わかっているつもりだった。


けれど私は何も解ってはいなかった。

犠牲として踏みつけられる方になるまで、何ひとつ解ってはいなかった。



隣国へ使者として送り出された私は、仲間の裏切りにより捕縛された。


使者とは名ばかりの決裂するとわかりきった交渉内容を託されただけ。


私はただの時稼ぎだった。

いや、時間稼ぎどころかただの捨て駒でしかなかった。

私を裏切り、捨て置いた仲間の行動は正しかったのかもしれない。

わからない。

何が正しいのか、私にはわからなかった。


そして私は爪を剥がされ、指を潰され、脚を腕を、全身の骨を折られた。

舌を噛もうとするも歯はとっくに全て抜かれたあとだった。

涙を流すたびに抉られた目が酷く染みた。

喉も潰された。


けれど、使者として殺されることはなく、


されど治療されることもなく


自死も出来ず、


助かることもない。


救いは…どこにもなかった。

どれだけ強く願っても、聖神は私の願いを叶えなかった。


死んですべてを終わりにしたい。


貴方のそばに逝かせてください。


痛みと苦しみのない場所に…




どうか、どうか、どうか、どうか。

かみさま私を殺してください。

死にたい、死にたい、死にたいのです。

とうかかみさま。どうか、どうかお願いです。私を…


けれど、どれだけ祈っても、願いは叶わない。


私に救いは訪れなかった。




そして私は……神を、全てを恨んだ。








人としての尊厳を全て奪われ、私は知った。

そもそも人間に尊さなどないのだ、ということを。


嗚呼。本当に君の言うとおりだ。

全くもって私は何も理解っていなかった。




人は醜い。なんて醜い生き物なのか。

生きる者も、死に行く者も、すべての人間は醜い。


私を壊して楽しむ敵国の兵士も、私を売った自国の兵も、私の状況を知らずに生きる友も、私の命を使い捨て結んだ条約のもと生きる王も国民も皆醜い。




それらを愛し、生きる事を赦す…聖神も醜い。




そして私は思った。

このままでは死ねない。と。

生きとし生ける全ての醜いものを、全て皆殺しにせずに死ねるものか、と。


痛みに、恐怖に、苦しみ、藻掻き、泣き叫び、死にたい、殺してくれと叫ぶ声が赤黒い泡となり口からドロリと流れ落ちる様をみてやりたい。



私がそうされたように。




ああ、けれど、それができない自分が憎い。

私が、あいつらが、全てが、世界が、憎い。

これほど憎んでも私に残されたものは死しかないのが憎い。


憎い、憎い、憎い。


絶望と怒りに染まりながら、ただ与えられる死を待つだけの無力な肉塊に成り果てていた私は願った。


私を救わない神の元になど、死後も決してゆきたくないと。

強く強く強く、私を裏切った聖神を憎んだ。





そして、私は邪神に召喚された。


いや、その時は気づかなかった。

その時はただ、淀んだカビと糞尿と腐敗した肉の匂いが充満した場所から、清浄な空気の場所へと移動したことだけは解った。


私に触れるほんのりと冷たい滑らかな手。


そして私は新たな名を与えられ、直後にゴキリと鈍い音が体内に響いた。


邪神は私が求めてやまなかった「死」を私に与えた。

私の命を一瞬で終わらせた。


あれほど苛んでいた痛みも苦しみも、僅かに残った命の灯火も


全てをあっけないほど容易く。

私の全てを終わらせた。



そして汚物のような肉を躊躇いなく棄てた。

死してなお、腐りかけた肉体と憎しみに縛られていた私も一緒に墜ちた。


落ちた先で見えるのは真っ黒な闇。

けれど邪神は戯れのように私に新たな命を与えた。

真っ暗な空の隙から真白い手が現れた。



その手には赤紫の花。



眼球を失い、赤黒い闇以外なにも写さなかった瞳。

けれど、肉体から解放されて初めて見たのが真白な手と手向けられた花だった。



美しい、なんて美しい…私の死神。

私のかみさま。


うっとりと見上げる私の真上へふわりと花が落ちてきた。

邪神の加護がついた冥界の花。

それは私の胸にすっと吸い込まれて消えた。


ボロボロだった体は元に戻った。



そして再び私は知ってしまった。

あれほどまで私を苛んだ苦しみが、憎しみが、痛みが、怒りが、悲しみが、全てが…


白く、たおやかな、神の美しい指先一つであっけなく終わるということを。



なんて理不尽。

なんて不条理、なんて、なんて…



あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛



私は叫んだ。

喉が割れ、血が噴き出しても叫び続けた。

叫ばずにはいられなかった。


憎い憎い憎いにくいにくいにくい。


人でしかない私の肉体はあの空に届かない。傍に侍ることも赦されないのか、黒以外何も無い場所に捨て置かれた。


私のすべてを終わらせたくせに。


私の全てを奪い、そして全てを与えたくせに。

私を救った神にすら怒りが込み上げる。



「憤怒」そうだ、それが神から人ならざるものになった私に与えられた新しい名だ。



邪神の色に染まった瞳から涙が溢れた。


涙が黒い闇に触れるとそこから赤紫の花が溢れた。

あたり一面に広がる花畑、

どこまでもどこまでもうつくしく。


「迷わず行け」


花と共に落とされた声が耳の奥で何度も蘇る。


優しさも冷たさも恐れもすべてを内包するひやりとした美しい声。


ああ、行こう、私の神の言うままに。


花の咲くその先は私の憎しみが生まれた場所。

苦しみも痛みも憎しみも恨みも全てを思い出す。


赦すな、決して。

私を裏切った者達を。

胸からあふれる煮えたぎるような怒りを。

人ならざるものになった私の怒りが風化することはない。


許しなど要らない、優しさなど無意味、この終わらぬ怒りに身を焦がしながら歩いて進むだけだ。


足の裏でジュウと花が焦げる。

花などいらない。私の胸に咲く花さえあれば。

優しさなど要らない、あの時神に与えられた終わりの記憶さえあれば。


我が神に仇なす者達など燃やし尽くしてやる。

憤怒の名に相応しくこの怒りですべてを焼き尽くそう。


こらから滅びゆく人間ごときに名など呼ばせるものか。我が神から戴いた私だけの名前を呼ばせるものか。


ラースと名乗ろう。 


我が名はラース、全てを焼き尽くす邪神の使徒。




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