番外編 Lust
俺達は召喚獣用の生き餌として創られた。
時々、酔狂で幼い召喚獣を飼うことがある。
そんなとき俺達…豆餌は使われる。
ぽいと放りやすい大きさ。
栄養を多分に含む丸い体。
喉に足が引っ掛からないように改良された極端に短い足。
俺達は喰われるために創られ、喰われるために生まれ、喰われて死んでいく。
俺達は個であり全である。
俺達は自己を持たない。
次世代をつくる能力はなく、ただ餌としてそこにあった。
植物のように地に植えても根を生やすことはなく、動物のように花を咲かせ種を蒔くこともない。
俺達は餌としてただ在る。
永遠に分裂の魔法をかけられ増えていく。
増えて、生まれて、喰われて、また増えて。
そうしてただ時を過ごす。
それにこれといった感慨はなかった。
そんなある日俺達はとんでもなく高次の存在に召喚された。
召喚された瞬間俺達は豆餌から切り離され、黒に染まった。
豆餌だった俺達はただの豆餌から黒豆餌になった。
黒に染まった俺達は以前よりも少し頭が良くなった。
いつか喚ばれるかもしれないその時のために、黒を持つ御方のためにいろいろなもののあるここで微睡んでいればいいと理解するほどには。
そして、俺達はそう長くまたされることなくその出番を与えられた。
そう、黒を纏う御方のそのもとへと。
そして、
ひとつは闇の魔力で出来た土に埋められた。
残りは全て闇の魔力に満ちた水に浸けられ膨れ、もう少しで足と頭が出る頃に煮られた。
とてつもない高温で煮られた俺達は一瞬で死んだ。
ひとつだけ埋められたものが俺になった。
いや、このときはまだ俺は俺であり俺達であった。
黒を纏う御方の優しくうつくしい指先で、ころがされ、撫でられた。
俺達はむずむずとした気持ちになって、その気持ちを抑えきれずあたりを転がった。
そんな俺達を黒の御方は楽しそうに笑って見ていた。俺達はそれがうれしくてさらに転がった。
そんな俺達を黒の御方は手のひらにのせて戯れにつつき転がしながらなにかを思案し…そして
「ラスト」
力ある声が俺達を縛った。
俺達は歓喜してその呼び声に答えた。
ただの召喚獣の餌の一粒が高次の存在から名を戴いた。
その力は凄まじく「ワン」と鳴き声で答えた瞬間、俺は黒豆餌で唯一の自我を持つ豆餌となった。
唯一肉体を持ち、名を与えられた『俺』は俺達ではなく、一個の黒豆餌の『俺』となったのだ。
ひとり。
初めて感じる自分という存在。
それは酷く心許ない感覚だった。
俺は俺を名付けた神に付いて回った。
寂しい。
寂しい、寂しい、寂しい、ひとりは寂しい。
誰かと居たい、ひとりはいやだ。
一緒に、一緒にいて。
離れないで、一緒になりたい。
とけて、融けて、どろどろになるくらい。
一緒に、ひとつに、ひとつになりたい。
寂しい。ひとりは寂しい。
そう鳴く俺にかの人は黒いてろりとした液体を差し出した。
くん、とにおいを嗅ぐとどこか懐かしいにおい。
俺はそれを嘗めた。
それは力ある水に溶けた血と肉。
それは業火に溶けた100のいのち
それは俺であり俺ではないもの。
俺は貪るようにそれを嘗めた。
それはとろりとつややかに揺れる黒い水の姿をした命。
こってりと舌に甘く、けれど、ほんのりとした血の味と塩気があった。
そして…
ひとりは、たくさんは、溶けて混ざり合った。
久しぶりじゃないか兄弟よ。
会いたかったよ自分。
俺はまた俺達になった。
そして、その日から俺は101の命を持つ黒の御方の番犬となった。
俺の中の俺達の命は背中へ凝り、魔石となりそこから伸ばした手で黒の御方を助けた。
以来俺と俺達はラストとして黒の御方の側にい続けている
けれど、俺は思う。
いちど名を与えられた俺はもう俺達には戻れない。
ひとりがみんなと融け合う心地よさを俺が感じることはもうない。
ぽっかりあいた寂しさを消そうと
俺は黒の御方をペロペロとなめた。
そして、俺を失った俺達も寂しいとその薄い紫の手を伸ばす。
「こら、擽るな。くすぐったいだろお前は本当になつこいな」
優しい手が俺を俺達をなでていく。
その度に満たされる心と力。
側に、ずっとずっと側に。
どろどろに溶けてしまいたいほどに貴方をお慕いしているのです。
優しい手から伝わる力を大切に大切に背中の魔石に溜めていく。
いつかこの身に満ちたとき…黒の御方と同じ姿になれるように。
そしてひとつに溶け合えるように。
我が名はラスト
色欲の名を与えられし邪神の使徒。




