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邪神と黒虎




今俺は黙々と大好物を食べている。



うまい。



小さいのもいいが大きいのもいい。

小さいものは味が濃いし、おおきいやつは何よりも食感がいい。

中くらいのやつだって大好きだ。



何が言いたいまかっていえば、とにかくうまいってこと。


深海博で見た大きなイカがいるなら、俺の大好物も巨大な奴がいるかもしれない。

そうしたら、絵本の中の猫のようにいつか、いつかは俺の体よりも大きなそいつにかぶりついて食べてみたい。


なんて夢を見たことがある。


その夢が叶った。


味も量も申し分ない。

なにより旨い、とにかく旨い。

やっぱり新鮮なものは違うなぁ…としみじみ思う。



ああ、旨い。

旨いけれど…



「…詰んだな」



俺はたった一人きり、不思議に薄明るい洞窟の奥でそう呟いた。










俺がトラック転生ならぬ自転車転生したのは、つい昨日のこと。


危ない!って声と共に俺にぶつかってきたちょっとお洒落なシティサイクル。バランス崩してそのまま後頭部をコンクリートに打ち付けて俺は死んだ。死んだと思ったら定番の軽い感じの神様にあって転生先はダンジョンマスターか邪神どっちがいい?って聞かれた。選択肢少なっ!て思ったけどゲームもほとんどしたことない上にお小遣い帳すらつけてなかった俺にダンジョン運営なるものができるわけもなく、邪神一択。

オッケーって言われて次に目を覚ましたら…


今俺が居る洞窟に飛ばされていた。

ここは邪神の祠の中らしい。


転生したときに貰った邪神証のボーナスポイントは500ポイント。


このポイント、洞窟の真ん中にある石盤に翳すと色々選べたんだよ。

で、邪神の服とか邪神の枕とか邪神の椅子とかとりあえず邪神シリーズの必要そうなもの買ったら残り265ポイント


1ポイントいくらくらいとか、考えても俺にはよくわからなかった。

邪神靴下は4ポイントなのに邪神手ぬぐいは80ポイントなんだぜ?邪神タオルあるんだったら邪神手ぬぐい使わないだろ。そもそも需要がないから量産できなくて高いままなのか…俺には邪神アイテム事情がよくわからない。


とりあえず必要そうなもの出して余った265ポイント。とっておいてもいいけど…何か良いものないかなって一覧見てたらそいつがあったんだよ。

他より断然安い丁度265ポイントで買える召喚獣ってやつ。


黒虎 265ポイント


俺は喜び勇んでそいつに残りの邪神ポイントを全振りすることにきめた。

だって召喚獣だぜ、邪神の召喚する獣。

しかもそいつの色は黒。


やっぱ邪神の召喚獣はそうじゃないとな!

俺の厨二心が激しくうずいた。


そのうえ虎!!なんたって正義の猫科!

俺は無類の猫好きだったからもう躊躇いなんか無かったね。


まさに君に決めた!だ。


そして俺は洞窟の真ん中、結構邪魔なところにある薄赤紫に光る黒い石盤に邪神カードを翳した。

ポイントを使って買い物をするときはこの石盤にカードを翳すのだ。


そうして商品番号や商品名を言うとポイントが消費されて部屋の何処かに商品が現れる。

ちなみにポイントを使ったときの音はジャシーンだ。

ちょっと高めの音はどこかのICカードの音に似てる。


しかし個人的には猫の鳴き声の方がよかった。

あ、邪神ポイント5万点でサウンドが変えられるらしい。うむ、高い却下だ。


いや、そんな話はどうでもいい。


で、俺はうきうきで待ってたね。

だってもう間違いない、黒い虎なんて絶対に可愛いに違いない。


そう揺るがぬ確信があった。

卵で出るのかな?それともファンタジーらしく目の前にぼんやり浮かび上がらせるのか?


邪神史上最大級にワクワクしながらジャシーン!と赤紫に光る石盤を鳴らしたおれの後ろでドシャッと水気溢れる音と共に落ちた音がした。



もわりと生臭い水の匂いが鼻につく。

恐る恐る振り返ったそこには…


見事な流線型の頭と円らな瞳。

ピンとした長いヒゲ、見事に曲がった腰は長寿の象徴、カチャカチャと蠢くたくさんの足の中にはハサミの形をした手が紛れてるそして体に沿った殻には黒い縞が鮮やかな彩りを添えて…


「あ゛ぁぁぁぁあ!!」


俺は膝から崩折れた。


「こっちかよ!!」


それはそれは見事な巨大ブラックタイガー(ウシエビ)だった。


あまりのショックに床と仲良しになる…暇は俺にはなかった。


何しろ相手は取れたて新鮮ピッチピチのブラックタイガーだ。

まさに水揚げされたばかりのそいつはタイガーの名に相応しく猛々しく床で跳ね上がり俺に向かって襲いかかってきた。

「あっぶね!」

洞窟は突如として牛ほどの大きさのエビが飛び上がり辺り構わず暴れまわる惨劇の地へと様変わりした。


びったん!ベッチン!バン!!ドカン!!


と四方八方に体当たりを繰り返したあと、少しづつ動かなくなった。


ブラックタイガーがその巨体を動かす度に俺がビクッとしたのは秘密だ。

いや、だってしたかないだろ?

考えても見ろよ、牛サイズのブラックタイガーが跳びはねた時の速度は車くらいはあったぞ?!


俺はポイントで買った邪神冷蔵庫10ポイントの横の隙間で遠い目をしながらちょっと楽しくなるかなと『ヒャッホー』とエビ心情のアテレコをして…次の瞬間、バンッと凄まじい勢いで俺の真横の壁に当たったブラックタイガーの尾の光の加減で虹色に輝く黒いを見送るとぶるぶる震えながらひっそりと息を潜めるしかなかった。


でっかいエビ、こえぇ


そして、ブラックタイガー(ウシエビ)はその名に恥じることなく雄々しく暴れまわり…徐々にその動きを鈍くし、最期のひとはねをしたあと動かなくなった。


洞窟の中はひっくり返った邪神グッズで目も当てられない惨状。


そして、漂う…生臭さ。


俺は遠い目になった。

ああ、でもある意味、そうだよ、ある意味邪神っぽさが増したような気もする。

全家具邪神ブラックで決めたスタイリッシュハウスが一気に廃墟感のあるデザイナーズハウスになったと思えばいい。

もちろんデザイナーはブラックタイガー(ウシエビ)だ。



…そう思うことにしよう。


しかし悲しいかなデザイナーは不慮の事故で亡くなってしまった。水棲生物が陸で生きていけるわけがない。多分、ブラックタイガー(ウシエビ)は邪神池を購入した後に手に入れなきゃいけなかったんだ。クルマエビ科のブラックタイガー(ウシエビ)は淡水でよかったんだから。


…まあ、邪神ポイント使った時点では…まさかエビが出てくるなんておもってなかったけどな。

俺はごろん、と床に横になった。



黒虎ブラックタイガーなんて名前につられて使ってしまったなけなしの265ポイント。


265ポイントあれば他にももっとこの部屋も快適に出来ただろうに。

ベッドはすっかりバネがやられて寝ずらくなってしまった。

流石は巨大ブラックタイガー。真っ先にベッドを狙うとはなかなかにブラックだ。


ベッドを諦め床に転がりながら俺と同じように床に転がるブラックタイガーを見ていたら腹がぐうとなった。


あ~そういえば冷蔵庫には調味料は入ってたけど食材は無かったな…


腹がぐうとなった。っていうか邪神は神様なのに腹が減るのか。



視線の先には転がる巨大エビ。



そして…





冒頭へ戻る。







「うあー!もう一生分食べた!」


おれがパンパンの腹を抱えて石盤が置かれている石柱によりかかる頃、ブラックタイガー(ウシエビ)は4分の1減っていた。

まあ、一人だし仕方がない。


完食まで先は長い。


ぷっはー食った食ったと腹をさする。流石は邪神、人間だったら4分の1も食べられなかっただろうビッグなエビだ。

邪神キッチンに一通り揃ってた料理道具で刺身と焼きとマヨ和えは絶品でした。


「もうしばらくエビはいい」


転がってる半分解体されたブラックタイガーをどうするかも考えたくない。絶対冷蔵庫には入りきらないなぁ…それに



「あ~腹が重すぎて動きたくない」



しかし困った。

腹は満ちたけれど俺の邪神ライフには暗雲が立ち込めてる。


なんてったって邪神ポイントは0だからな。なにより色々と考えることは盛りだくさんだ。


ごろり、と横になるとポケットの邪神証がゴツゴツしてちょっとじゃまだ。

ペイッと出して石盤の上に放る。

0ポイントだし、ポイント溜める方法わかんないし。


あ~どうでもいいけど甘いもの食いたいな。


「黒虎でブラックタイガー(ウシエビ)か…じゃあ黒雷だったら…」


いや、腹いっぱいだしあのチョコバーは重いか。

まあ、ポイント0だしどっちにしろ無理だな。


ジャシーン


「って、出てきたし!!」

ポテッと俺の腹の上に落ちてきたのはコンビニでよく見かけるあのチョコレート菓子。

『ブラック○ンダー』


「つうかポイント復活してるし!!」

おれは飛び起きて邪神証を手に取った。

黒くて艶々した高級感溢れる邪神証の裏には



破壊

狂乱ノ宴

鬼畜

裏切リ者

屍肉喰イ

同属喰イ

地獄ノ業火

炭塵

悪食

暴食

倦怠

怠惰


と書いてあった。


業…(ごう)なのか(ぎょう)なのか(わざ)なのか気になるところだ。

ふりがなふってほしい。



<破壊>

部屋を破壊したのはブラックタイガー(ウシエビ)であって俺じゃねぇ。

<狂乱の宴>

宴?これが「ヒャッホーイ」ってアテレコしたせいだっていうならら責任者でてこい。

<鬼畜>

…確かに水棲生物を陸上に召喚して死ぬまで放置したのは鬼畜だったかもしれない。

<裏切リ者>

まあ、こっちとしても召喚獣という仲間を呼び出したつもりだったし、ブラックタイガーにとっても仲間的なつもりだったんだろうな、何か…うん、なんかごめん。

<屍肉喰イ>

ものは言い様だなオイ!!むしろあの巨大エビを生きたまま食う方が引くわ。

<同属喰イ>

…え?俺とエビって同属だったの?まさかの邪神=甲殻類?いやいや、まさかな…闇属性とかそういうことか?

<地獄ノ業火>

地獄?あれか?兜やきしたからか?れっきとした調理法だろ。

<炭塵>

…まあ、ちょっと焦がしたかな。一部食べられなくなったかな…慣れない調理器具ってそんなもんだろ?

<悪食>

エビは食うだろふつー。エビは食い物だろ。見た目か?文化の違いか?

<暴食>

まあ、確かによく食ったな。

<倦怠><怠惰>

認めるよ、ああ、片付けもせずに食後にすぐゴロゴロしたよ。

つうかそのくらいで嫌味たらしく書きあげて文句言うなんてお前は俺のおかんか。




納得はいかないけれど邪神らしいことをすればポイントが貰えるだったら甘んじて受け取ろうじゃないか。

おかげでポイント残額は1199ポイント邪神業がひとつ増えると100ポイントらしい

そう、考えると…


黒雷チョコレートは1個で1ポイント。


…おいおい、高いだろ。せめて箱で欲しかった。

まったく、つくづくこのポイントは振り分けが謎だ。邪神靴下4ポイント、邪神マント1ポイント、邪神冷蔵庫10ポイント、黒雷(チョコレート菓子)1ポイント

マントとチョコレート菓子一個が同ポイントってのが非常に解せぬ。あと冷蔵庫安すぎる。

もう少し考えてつけろよ。


あ、業に反逆者って増えた。って、おい!反逆してねぇよ!素朴な疑問だよ!!



しかし光明は見えた。

ちょっと邪神っぽいことしたらポイントが手に入るなら俺はもう少しこの部屋でだらだらできる。

残りの1299ポイントでできるだけいい感じに引きこもろう。

あと、今度はけちらずに召喚獣を飼いたい。


こうして俺は細々とした邪神ライフを第二の人生として過ごすことになった。











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