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妹が残念なパーティーに入った

 マズい事態になってきた。

 困った状況であり、かつ面倒な事態だ。


 妹が出会いの酒場に訪れ、他の冒険者らに売り込もうとしている。

 いや、仲間が出来るのは良いんだ。むしろ一人だと心配でたまらないから俺も成仏できないのだし。


 だがな、違うんだ……。

 そうじゃないんだ……。


「へえ、あなたが死霊術の使い手ってわけね。面白いわ」

「そう言う奴を俺は5人見た。最後の一人を除いて、自分が死霊になっていたがな。ああ、その一人は君さ、イヅミ」

「ドホホ、オデ、死んだ兄貴、合イタイ」


 あろうことか死霊使いとして売り込みやがった。馬鹿じゃないの、イヅミちゃんは普通の魔術師だよ?


 なんでなの、なんでそこで「ふんす」と得意げな鼻息を出すの?

 少なくとも俺だったら、失礼しましたーって回れ右して帰るよ?


 どうやら先日の一件、宿屋に送ってからというもの妹は俺がいることを確信してしまったらしい。


 いやたぶんだけど、死んだときから俺のことを気づいていたと思う。残念なことにそのときは勘違いに近しかったが、今では真実だと知れている。


 だけどね、俺はいつになったら成仏できるわけ?

 たまに神様っぽい人から連絡が来るんだよ。向こうの世界では美人さんが多くて、困ったことに男の子が少ないんだって。


 だからね、存在しているだけで俺はもう勝ち組なの。

 可愛い女の子たちとお話をして、ちょっとアレなことをして楽しく暮らしていけるの。


 こんなチャンス、二度と無いよって神様っぽい人から言われてるっていうのに……どうして俺まで一緒に売り込んじゃうのかなぁーー。

 もう分からねぇ、妹が可愛いってことしか俺には分かんねぇーー。




 困ってる、お兄ちゃんは困ってるぞ。

 だって「やめろ」と手を出したら死霊使いの証拠になるから放っておいたのに、迷宮へズンズン進んで行くんだもん。


 しかもここ、よく見たらゴルザッキの縄張りじゃん。ボスのいる迷宮なんて遊びに行く場所じゃないぞ。


 ちゃんと見てなかったけど、こいつらイヅミよりレベルが相当上だし、多少は腕利きかもしれん。

 だが少なくとも生身の俺なら絶対に入らない場所だ。


 なに考えてんだコイツら。妹の実力を見るだけなら、もっと簡単なところに行けよ。

 装備品を見る限り、彼らにとっても楽な迷宮では無いだろうに……なーんか怪しいな。


 そう考えて、こっそりと三人の会話を聞いて――いや、こっそりしなくていいや、どうせ幽霊だし。男らしく仁王立ちで聞かせていただいた。


「手はず通り金目の……」

「どうせすぐ……後片付けは……ふふ、面白くなってきたわ」

「カワイソウ、ダロ、女の子ダド」


 おいおいおい、どういう事だよ。

 最後の肉団子みたいな大男が、なんでいい奴なんだよ。


 悪かった、人は外見じゃないと分かってはいるが、のっけから疑っていた。俺が悪かった。


 それよりも、こいつらは噂に聞く新人殺しルーキーキラーか。

 あえて高い迷宮に行き、勝手に死んだあと金目のものをいただく。冒険者ギルドはたいした規模ではないので、死者の扱いはぞんざいな面もある。


 だから、奴らは影に隠れて甘い汁を吸っている。

 ふーん、あっそう、まさかだけど俺のイヅミにそんなこと出来ると本気で思ってんの?


 よーし決めた。なるべく正体を隠してたけど、今回は手を出すわ。それと、もしもイヅミに手を出したりしたら、お前らもアレをアレするから。



 そしてもうひとつ困った事として――やはり敵が強い。


 ざきゅっ!


 斬りつけた白刃は、ブ厚い装甲へと吸い込まれてしまうのを感じる。こいつは巨大カニの姿をしているアイアンクラブであり、関節を除いて鉄のような甲羅に覆われている。


 ありがたい事にこちらは幽霊なので敵の攻撃は当たらない。しかし妹を守るため、いつもより全力を出しているので疲れが早い。


「どうなっている、こいつぁ本物の死霊使いか?」

「面白いわね、あなた。成し遂げられる人物ってことかしら?」

「オマエ、ヤル! モットガンバレ!」


 この女、いっつも「面白い」っつってんな!

 軽く腹立つからやめてくんない!?


 あとね、妹ちゃん、イヅミちゃん。

 さっきから「はあああ!」と両手を差し伸べているけど、何もパワーをもらえていないからね、お兄ちゃんは。


 どちらかというと魔法を使ってくれたほうが嬉しいし、そうじゃなくても「お兄ちゃん頑張って」と言ってもらえたほうが頑張れるよ、マジで。


 ああクソ、かってーーな、このカニは! お前のカニミソほじくり返してやろうか!


 などと考えていたところで、はっとした。

 俺、お化けなんだから装甲とか関係無くね?

 そう思い、頭のあたりに腕をズボーッと入れ、かき混ぜてやると……どずん!とそいつはひっくり返る。


 うっへぇ……感触きもちわるっ!

 ねばねばしててもう……。


「やるじゃないか! ふむ、金目のものを奪う予定を変更し、君は正式な仲間にさせてもらおう」

「良かったわね、これから私たちの代わりに働いてもらうわよ。ようやく面白くなってきたわ」

「オデ、オマエ守る、前衛、任せろ」


 ほんともう、この大男以外いらねえわ。

 あとね、イズミちゃん。得意げにピースしてるけど、あいつらの言葉を少しだけでも聞こ? 本当にひどいことを堂々と言っているからね?



 ちなみに後で神様っぽい人に連絡してみたら、美人さんだらけの世界はもう締め切っていたらしい。


 その日、俺は朝までオイオイ泣いた。


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