第88話 特訓
本日三話目の投稿です
「来たか」
格闘場裏、アルフと語り合った場所、桜の木の下でグラナートはレイを待ち構えていた。
赤いリボンで髪を結い、真剣な面構えでレイはグラナートへ歩み寄る。
「よろしくお願いします」
礼儀正しく頭を下げるレイを一瞥し、グラナートはその後ろへ視線を投げ、僅かに眼を細める。
「何故、お前がいる?」
「なんでわかんだよ」
レイの後ろで、潜伏を使っていたブレアが魔術を解除し姿を現す。
絶対の自信を持っている魔術を1人の人間に何度も見破られたことにより、ブレアは機嫌を損ねたように視線を逸らす。
「私がお願いしたんです」
ブレアの代わりにレイが一歩踏み出し、グラナートへ説明する。
ブレアを見て、グラナートもまた機嫌が変わったようにレイに背を向け、桜へと近づく。
「それで、何がしたいんだ?」
「これがいい、って技あんの?」
言葉足らずなグラナートに補足する様に横から声をかけるブレアに、レイは一つ頷いて答えた。
「はい」
(あの人みたいに言霊なんて特殊な魔術は使えない。お兄様の様に自在に操れるものもない。アルフは、魔力が足りなさすぎる。でも、私は、この魔術刀を生かせば……!)
真剣な眼差しで答えるレイに、グラナートは振り返りレイを見つめる。
ブレアもまた、緩んだ表情を引き締め、レイを見下ろす。
「なんだ」
最初からレイの意思を尊重しようと、グラナートはレイに尋ねる。
一息おいて、レイは声に力を込めて告げた。
「それは、」
***
「もっと腰を落とせ!」
「はい!」
レイは魔術刀を振るい、ブレアへと斬りかかる。
口角を上げ、躱し続けるブレアに引き下がることなくレイは食らいつく。
「たぁ!」
「肩に力を入れ過ぎるなよ」
容赦なく潜伏を使い、ブレアはレイを攪乱する。
学園に潜入した以来の戦闘に、ブレアは口角を上げ楽しんでいた。
「ほら、どうした!?」
「闇雲に刀を振るうな。気配を感じろ」
大人2人ということで、グラナートが監視・指導役、ブレアが対戦相手・指導役として役割を分けた。
レイはグラナートの言葉を律儀に実行し、動きのキレを上げながらブレアを追いつめる。
「オラァ!」
「!?」
ブレアからの不意を突いた攻撃に、レイは魔術刀を犠牲にして躱す。
攻撃禁止であったブレアの行動に、グラナートは眼を細めた。
「ブレア」
「あ!? わざとじゃないから!」
ゆっくりと近づいてくるグラナートから逃げようと潜伏を使ったブレアを、易々と捕まえたグラナートは昼と同じように花火をお見舞いする。
「あ゛―!!」
黄昏時の空を綺麗に染め上げるブレア花火を見上げるレイに、グラナートは声をかける。
「今日はこのくらいにしよう」
「……はい」
グラナートの言葉に、レイは素直に頷く。
レイは刃の欠けた魔術刀を魔術へと変換し、グラナートへ頭を下げた。
「ありがとうございました」
「あぁ」
簡単な返事をしてブレアを回収しに行くグラナートの背中を眺め、レイもまた踵を返し学園内へと戻った。
(全然ダメだった。ブレアさんにまともに攻撃が入れることができなかった……。こんな調子で、本当にあの技を使えるようになれるの……?)
俯きながら歩く廊下は静かで暗く、寂しさが感じられた。
1人を実感させられるその場所に、レイがよく知る人物が待ち構えるように立っているのが見えた。
「レイ」
「お兄様……?」




