第84話 来訪
本日四話目の投稿です
「道中、お疲れ様でございました」
「お会いできる日を、心待ちにしておりました」
丁寧に挨拶をする2人を見下ろし、フィーネは扇子を畳みながら答える。
フィーネは冷気を纏っており、彼女の周辺のみ温度が下がる。
魔力によるものか、はたまた彼女のカリスマか。
フィーネによって発せられる圧力は、並大抵のものではなかった。
「出迎えご苦労であった」
その声は冷たく、聞くものを凍えさせるほどの重みをもっており、物陰に隠れる生徒3人は無意識に鼓動が加速する。
「なんだ、あれ……」
「そんな、あの人が母親なら、レイが震えてたのも納得じゃない……!」
動揺を隠せず、アルフとティアナが声を漏らす。
視線の先にいるフィーネは1人だけ纏う雰囲気に差があり、その声、その動き1つで緊張が走る。
「ハル、レイ。強盗に襲われたとの話だったが」
「お母様がお気に留める程のものではございません」
頭を下げたまま答えるハルに、フィーネは眼を細める。
母親として振る舞ってはいるが、フィーネからは当主としての空気が剥がれていない。
「そうか」
「本日は、どういったご用件でしょうか」
ハルはフィーネの反応を窺いながら本題を切り出す。
扇子を口元に運び、フィーネは2人へ視線を注ぎ続けた。
「なに、我が子が無事、学園に馴染めておるか、己の眼で確認しに来たまでよ」
「御冗談を」
フィーネは語りながら2人の顔を上げさせる。
真剣に言葉を否定するハルの眼を、フィーネは真正面から受け止めた。
「冗談、な。それでも良い」
フィーネは口元をわずかに歪め、ハルとレイの顔を見比べる。
ふむ、と首を微妙に動かし、肩を竦めた母親を、ハルは見つめ続ける。
「多少は、マシな顔つきになったな」
「ありがとうございます」
少しも声色を変えることなく告げるハル。
フィーネは次にレイへと視線を移し、見下すように冷たい態度を取った。
「レイ」
「はい」
怯えた色を上手く隠すその瞳を見て、フィーネはまた1つ感心する。
レイから漏れ出る凍てついた空気を気にすることなくフィーネはレイの髪に触れる。
「違いないか」
「はい、お母様」
幼い頃の面影をレイに重ね、扇子で口元を隠し嘲笑を浮かべフィーネはハルへと視線を戻す。
「私の事は気にせず過ごすといい。ドレットはどこだ」
「ここですよ、当主様」
ハルへと投げかけた質問に、物陰から瞬間移動してきたドレットが代わりに答える。
突然現れたドレットを気にすることなくフィーネは続けた。
「私を案内するがいい」
「かしこまりました」
2人は、そのままドレットと学園の奥へと消えたフィーネを見届ける。
母親の姿が見えなくなったと同時、ハルとレイはその場に崩れ落ちた。
「ちょ、ハル!?」
「レイ!」
2人の様子を見て、堪らず物陰から飛び出したティアナとアルフは、息を切らし、汗を溢れさせる2人に絶句する。
(平気そうに見えたけど、私たちですら固まるほどの威圧感だったのに、目の前で会話してた二人が何も感じない訳がない……!)
「大丈夫なの?」
「あぁ……」
肩で息をするハルを支えながら、ティアナは不安そうに顔を覗き込む。
レイもまたアルフに支えられたが、2人共尋常ではない程に消耗していた。
「とりあえず、食堂で休憩しましょう」
ティアナの後ろからテレサが提案し、誰もが無言で賛同する。
ハルとレイは3人に支えられながらゆっくりと食堂へと移動した。




