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第7話 秘密

 人生で一度も体験したことのない状況に、ティアナの鼓動は自然と速まり、顔は赤く染まっていく。


「そんなに恥ずかしがるなよ。アインフォード王国第三皇女、ティアナ・アインフォード様」


 真っ直ぐにティアナを見つめるハルは、冷たい声で言い放った。

 ティアナの顔に上った血は、一気につま先まで流れ落ち、代わりに心拍数は更に上がりつつける。

 そんなティアナを見て、ハルは満足そうに笑った。

 

(え……? 今、なんて? 第三皇女? この男、私の正体を知っている!? でも、どうして? なんで? どこで……?)


「ど、して……」

「そんなに動揺するか? いや、面白いけどさ」


 混乱と動揺で上手く言葉の出ないティアナを見てハルは不思議そうに首を傾げる。

 その顔には、先ほどまで一緒にアイスクリームを食べていたあのハルの面影が一片たりとも存在しなかった。


「なん、で……?」

「レンフォールド」

「え……?」


 混乱し続けるティアナは、喘ぐように問う。

 ティアナの質問に、ハルは聞きなれない言葉を発した。


「ハル・レンフォールド。それが俺の名だ」


 突如として告げられたハルの真名に、ティアナの混乱は尚深まることとなる。

 しかしそれは、ハルの逆鱗に触れることと同義であった。


「……? それと、私の正体を知っていることと、関係があるの……?」

「!?」


 返された言葉に、ハルは目を見開き、そして、唇を噛んだ。

 ティアナの顔のすぐ横にある右手を振り上げ、ハルは力を込めガラスケースを叩く。


「ひっ」

「くそっ、お前等は……!」


 明らかに何かを悔しがるハルを、ティアナは混乱と、動揺と、恐怖が入り混じった瞳で見つめる。


「っ、ハル……?」


 肩をピクリと震わせ、顔を上げ、真っ直ぐとティアナを射抜くハルの瞳には、確かな怒りが灯っていた。


「ッ、まあいい。ティアナ、お前処女だろ?」

「……え?」


 ハルの溜め息を吐きながら、それでいて視線だけはそらさない。

 話題を切り替える様に告げられた言葉に、ティアナの思考は完全に停止した。


「王族は、結婚相手以外に純潔を奪われてはいけないって掟があるよな?」


 ティアナの呼吸は止まる。

 動揺を瞳に、ティアナはハルを見つめる。

 怪しげに笑うハルに、ティアナは背筋が凍り、足が竦む。

 ハルの言葉は、確かに真意をついていた。

 王族には『純潔を与えるのは婚約者のみであること』という掟が確かにあった。


(どうして? なぜそこまで知っているの……? 王族の掟は、王族以外は知らないはずなのに。この男は、いったい何が目的で……)


「その純潔には、唇も含まれるのか?」

「へ?」


 純潔。体の全てが清くなければならないその掟。

 その条件に、唇は……。


「多分……?」


 にやり、と。

 口角を上げて笑うハルに、ティアナは自分の失態に気付く。

 ハルの目的を助長する自分の発言に、ティアナの顔は真っ青になる。


「いや……!」


 ティアナは無意識に力を込め、魔術を発動しようとした。

 その時、突如倉庫全体が揺れた。


「あっ……!」


 慌てて、ティアナは魔術を解除し、体の力を抜く。

 すると、倉庫の揺れは収まり、穏やかな放課後が戻ってきた。


「魔術発動に反応して倉庫全体が爆発する勢いだ。抵抗しても無駄だぞ?」


 ハルの眼は、真剣そのものだった。

 逃げ道を完全に塞がれたティアナの瞳に、涙があふれ出す。


(逃げなきゃいけないのに、体が震えて……! どうしよう、どうしたら……)


「ちゃんと、嫁にもらってやるよ」

「ひっ」


 ハルは泣いているティアナの頬に触れる。

 突然、前触れもなく与えられた感触にティアナの体はびくりと揺れる。

 ゆっくりと近づいてくるハルの整った顔に、ティアナの鼓動は大きく跳ね上がった。


(嫌、嫌、嫌。こんなの……!)


「だめぇ……!」


 ティアナは握りしめた拳をハルに向かって突き出した。

 時速五十キロの拳がハルの頬にめり込み、その反動でハルの体は後ろに飛ばされた。

 扉を突き破り、ハルは廊下へ転げ出る。


「ぐはっ……!」


 ティアナの息は上がり、肩は忙しく上下に動く。

 震える足を無理やり動かし、ティアナはゆっくりと外へ出た。


「っ、お前、何すんだ……!」


 やっとの思いで起き上がったハルは、ティアナを睨みつける。

 そんなハルに、ティアナはたまらず睨み返し、叫んだ。


「あんたなんて……、最低! 変態! 大嫌い!!」

 

 そう涙ながらに叫んだ後、ティアナは倉庫の前から走り去った。




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