第70話 レンフォード家の忌子
ポツリ、とレイは静かに語りだす。
姿勢を正し、一呼吸置いて。
膝に乗せた両手に僅かに力を込める。
自分を震わす恐怖を抑え込み、レイは少しずつ語り聞かせる。
「私達の家系では、魔術適性を髪色で判断します」
初めに、と前置きをし、レイは自分の髪を右手で摘まんでみせた。
ハル達の家系、レンフォールド家では代々魔術的素質が髪色に現れる。
髪色が黒に近い程魔術適性がすこぶる高く、また銀髪に近い程魔術適性が皆無に等しかった。
半世紀ほど、レンフォード家には、銀髪が生まれてくることはなかった。
代わりに、黒に近い茶髪が次々と生まれてくることにより、没落した家系を徐々に回復させつつあったのだ。
「そこに生まれたのが、純黒の髪を持つお兄様と、純銀の髪を持つ私です」
俯き気味であった顔を上げ、レイは微笑んでみせる。
反対にハルの顔は徐々に曇り、握った拳に力を籠めた。
「生まれたばかりの私は、久しく見ることのなかった呪われた象徴として、一族から忌み嫌われていました」
――忌み子だ!
――なんて不吉なの!
――殺せ! 今すぐに!
レイは瞼を閉じ、思い起こされる罵声の数々に、静かに唇を噛む。
それでもレイは、7人に強がるように笑顔を向けながら言葉を紡ぐ。
「何も持たない者、適性の無い者、価値の無い者。それが私、『レイ』です」
何事もないかのように笑うレイに、7人は息を飲む。
ティアナは顔を歪め、テレサは口元を両手で覆う。
大人3人は表情を変えず、アルフはただ、レイを見つめる。
ハルはただ歯噛みし、俯いていた。
「一族でもいない者として扱われた私の唯一の支え、それがお兄様」
レイはその瞳に尊敬と愛情を宿し、自分を見返してはくれないハルを見つめる。
「多くを持つ者とされたお兄様。私の、実の兄」
ハルを愛しそうに見つめるレイは、その冷たい声に、僅かに熱を持たせた。
「数百年ぶりに生まれた漆黒の髪を持つ長子。その妹として期待された私は、さぞや一族のプライドを切り裂いたことでしょう」
「でも、レイは魔術が使えるじゃない」
レイの言葉に、ティアナは顔を歪めたまま首を傾げる。
当然のように予測していたその問いに、いつものバカにした調子ではなく、悲しげに、それでいて優しくレイは答える。
「それは、お兄様のおかげです」
ティアナに視線を送った後、レイはまたハルへと視線を戻す。
納得のいかない表情を浮かべる生徒達に、レイは口を開こうとし、声を発するのを止めた。
「そこから先は、俺が話す」
ハルがゆっくりと顔を上げ、レイが言葉を紡ぐ時間を奪い取る。
兄の鋭い視線に、レイは嬉しそうに微笑み、場を譲った。
「えぇ、お兄様。ここから先は、私の記憶では曖昧ですから」
潔く、レイは身を引いた。
そんな妹を一瞥し、ハルは、静かに結論を告げた。
「俺とレイは、体を換えた」




