第6話 学園案内
「……」
「そんな不細工な顔見せつけに来たのか?」
放課後、ティアナは嫌々ながらも、学園案内をしようとハルの目の前に立ち塞がった。
しかし、自分に浴びせられた罵声や非礼に、声をかけることだけはティアナのプライドが許さなかった。
「……っ」
更なる罵倒に、今すぐ逃げ出したくなる足を、ティアナはプライドの為に、何より単位の為に踏みとどまらせる。
「俺だって暇じゃないんだ」
立ち上がり、ハルはティアナを押しのけて歩き出す。
予想外の行動に慌てたティアナは、ハルの袖を引っ張った。
「ま、待ちなさいよ! あんたを案内するように言われてるの、知ってるでしょう!?」
「んなもん、俺の知ったことじゃねぇし?」
嘲るように笑った後、ハルはティアナを振り払い、扉に手をかける。
「待ちなさい!」
ティアナの声を無視して、ハルは扉を開ける。
次の瞬間、2人は教室から姿を消した。
***
次に2人が現れたのは、食堂だった。
状況を呑み込み、溜め息を吐くティアナ。
何故自分が転移したのか理解できていないハル。
2人は、ふと、互いに視線を向け合った。
「なんでお前もいるんだよ」
「ドレット先生は、転移魔術を得意とする先生よ。きっと案内もせずに帰るだろうと思って、用意しておいたのね」
再び溜め息を吐きながら説明するティアナに、眉間に皺を寄せたハルは、しかし、諦めて肩を落とす。
「案内された後じゃなきゃ帰れないんなら、しょうがねぇな」
ついていく、と口にしたハルに、ティアナは意外そうな目を向ける。
逆に、ハルはティアナへ呆れたように肩を竦めた。
「これだけされても、まだ帰ろうとすると思ってたわ」
「あのなぁ、俺だってバカじゃねぇんだぞ」
(へぇ。逃げ道がないと思ったらちゃんと大人しくなるんだ。逃げるためなら何でもする最低男だと思っていたけど、案外違うのかも)
今日一日の印象と異なる反応に驚愕したティアナは、初めてハルに笑顔を向けた。
「少しだけ、見直したわ」
ティアナの顔には、誰かを褒めるような、そんな優しさが現れていた。
突然脈絡もなく向けられたティアナの笑顔に、ハルは呆気にとられる。
「……? どうしたの?」
突然動きを止めたハルに、ティアナは首を傾げる。
顔を覗き込むように少し腰を曲げて尋ねてくるティアナに、ハルは一歩下がりながら答えた。
「なんでもねぇよ。さっさと終わらせんぞ」
「そうね」
少し男子らしい反応をハルが見せたことで、ティアナはクスリ、と笑いながら食堂のほうを向き、指をさす。
「まずはここ、食堂ね」
ティアナはハルを連れ食堂の中に入り、アイスクリーム屋の前で足を止め、チョコレートアイスを注文する。
「歩きながら食べたいなら、これが一番よ」
そう言って、ティアナはハルへアイスクリームを差し出す。
キョトンとしながら素直に受け取るハルに、ティアナはまたクスリと笑う。
「……美味い」
「でしょう?」
一口だけ、アイスクリームを口に運び、ポツリとハルが呟いた。
その感想に、ティアナは自分のことのように喜ぶ。
「ここはいつでも利用できるから、食べたくなったら来るといいわ」
アイスクリームを褒められたことで上機嫌になったティアナは、自分の分もアイスクリームを買い、食堂を出る。
「次は……、実験室かしら」
2人でアイスクリームを口に運びながら、放課後の学園を満喫する。
***
「最後は、ここ」
「魔術倉庫……?」
学園全体を回り終えた2人は、学園の最上階にある1つの教室にたどり着いた。
そこは、魔術的価値のある宝石、魔導書、その他の触媒などが保管されている倉庫である。
「入ってみましょう」
そう言って、ティアナは倉庫の扉に手をかけ、中に入っていく。
後を追うハルは、先程とは違い、神妙な顔つきになっていた。
「凄いでしょう? 私、この倉庫が1番好きなの」
そには、種類別に綺麗に整頓された魔術道具が並んでいた。
右側には魔導書、左側には触媒、目の前には宝石たちが美しく輝いていた。
「確かに、綺麗だ」
「でしょう? この宝石はね……」
宝石の説明をしようと、ティアナが宝石の収まるガラスケースに近寄った。
その時、ハルの右手が、突然ティアナの顔の横に現れた。
「え?」
ティアナが振り返ると、ハルの顔が目前に迫っていた。
「なっ……!?」
二重の意味で驚愕したティアナは後退しようとするも、背中にガラスケースが当たる。
目の前にはハル、背中はガラスケース、両脇はハルの腕。
四方を囲まれ、ティアナの逃げ道は完全に塞がれていた。
「何っ……!?」




