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第61話 違和感

 二人が扉を開けたその先には、1人の男が正面に座り、待ち構えていた。

 足元にはティアナ達3人が座っている。

 足を組み、ソファに腰掛けるその男に、ハルは違和感を感じていた。

 

(なんだ……? 何かがおかしい。それより、)


「ドレット……」


 違和感を飲み込みながら踏み出したハルの右足に、何か大きいものが当たった。

 ハルが足元へ視線をやると、そこには背を丸め、足を抱え込むように倒れたドレットがいた。


「!?」

「おい!!」


 転がるように倒れているドレットを見て、2人は眼を見開き、ドレットに呼びかけながらしゃがみ込む。


「……ッ」


 ドレットの身体を少し揺らしただけで、彼は顔を歪め、悲鳴にもならない声を上げる。

 息も絶え絶えになり、彼が重症であることは明らかであった。


「どうして……」

「今度はお前等が相手か?」


 困惑するハルに、リーダー格の男は静かに声をかける。

 そちらの方へ顔を向けると、その男は笑うこともなく、真っ直ぐに2人を見つめていた。


「何しやがった!?」


 ドレットの姿に激昂したハルは、目の前に座っている男に怒鳴りつける。

 しかし、男は当然のことだ、と告げる。


「俺の部下を殴り、俺にも手を出すもんだから、少しやり返しただけだが?」


 ドレットが目の前の男以外は全て気絶させたようで、起き上がっている人影は他にない。

 ハルの怒りを受けながら、微動だにしないその男に、ハルは狂気すら感じた。

 

(言ってることだけ見れば間違ってねぇ。だが、それよりも前の行動がすべて間違っている……!)


「そいつらを返せ」


 ハルは怯むことなく男を睨む。

 あくまでも平静を装い、静かに、それでいて怒気を含んだ声で男に言葉を投げる。


「断る」


 その男は微塵も動く気配を感じさせず、それでも2人を圧倒するだけの気配があった。

 落ち着いた低い声で断じる男は、視線を逸らさずに真っ直ぐとハルを見る。


「テメェ、何様のつもりだ」


 動きの止まったハルの代わりに、アルフは一歩前へ進み出て、男を威嚇する。

 ふむ、とアルフの姿を眺めたその男は、足元に座る3人に視線を送る。


「折角の商品だ。傷つけたくはなかったが、1人くらいはいいだろう」


 冷たく、静かにそう言い放った男は、3人の方へ手を伸ばす。

 男の行動にアルフは舌打ちをし、殴り掛かろうと一歩踏み出す。


「テメェ!」

「ダメ!」


 男へと走り寄ろうとしたアルフを、レイの声が止める。

 すぐに視線をアルフから外したレイの身体は、小刻みに震えていた。


「逃げて!」


 ハルを見つめ、ティアナは叫ぶ。

 そんな彼女もまた震えていたが、取り繕うようにティアナは微笑む。


「いいから、逃げて」

「ティアナ……」


 無理をしていると誰の眼から見ても分かるその姿に、ハルは顔を歪める。

 

(なんでだ? あいつ等は何をそこまで怯えている? その上で逃げろだと? ドレットも倒れてるし。くそっ、どうすりゃ……)


「ちょうどいい。黙らせるのも含めて、お前にしよう」


 ティアナの言葉の真意を探るハルを置いて、その男はティアナの髪を引っ張り、自分の方へ持ち上げる。


「キャアッ!」

「ティアナ!」


 その男は、ティアナの髪を左手で掴んだまま、顎を右手で掴み、自分の方へ顔を向けさせる。


「……ッ!」

「商品に傷をつける訳にはいかないが、唇程度なら誤魔化せるだろ」


 そう呟き、その男はティアナへと顔を近づける。

 ティアナは顔を背けようとするが、顎を強くつかまれており、首を動かすことが叶わない。

 男の行動に、ハルはティアナとレイの警告を忘れ、魔術を発動した。


「蔦ァァ!!!」


 ハルの叫びと同時に振り下ろされた腕の先から一束の蔦が発生し、男の首に絡みつく。

 そのまま男の首を引っ張り、ティアナから顔を遠ざける。


「ハル……!」


 助かったと喜ぶべき場所で、ティアナは悲鳴を上げる。

 ティアナの様子に違和感を感じたハルは、顔を上げ男へ近づこうと足を踏み出した時、全ての動きが停止した。




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