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第56話 髪飾り


「ほら」

「ありがとうございます」


 宝石店から出た2人は、近くの公園に設置されているベンチで休憩をしていた。

 公園内にある売店で紅茶を2つ買ってきたドレットは、片方をテレサへ渡す。


「……」


 2人は並んで座り、会話もなく静かに街を眺めていた。

 お互いに何も語らない状況を苦に感じることなく、テレサは微笑んだ。


「先生とこうして一緒にいられるなんて、思いもしませんでした」


 嬉しそうに語るテレサを見下ろし、ドレットは1つの小包を取り出す。


「これ」

「え?」


 差し出された小包を受け取り、テレサは丁寧にそれを開いていく。


「まぁ!」


 そこに入っていたのは、宝石店でテレサが見つめていた髪留めであった。

 何事も無いかのように紅茶を飲みながら、ドレットは補足する。


「見てただろ」


 眼を合わせることの無いドレットに、テレサは恥ずかしそうに告げた。


「あの、……これ」

「ん?」


 髪留めを手に取り、自分を見上げるテレサに、ドレットは視線を合わせる。


「ドレット先生、今日は髪を結んでいるでしょう? それで、似合いそうだなって……」

「……は?」


 視線を逸らし、顔を赤らめるテレサに、ドレットは頭を掻きながら溜息を吐く。


「貸せ」

「えっ?」


 ドレットは、テレサから髪留めを受け取り、自分の髪を結んでいた紐を解く。

 一度髪を下ろし、再度結び直すその姿に、テレサは見惚れていた。

 

(やっぱり、今日のドレット先生、すごくかっこいい…)


「これでいいか?」

「……!!」


 ドレットの暗い色の髪に、落ち着いた緑がお互いの色を引き立たせる。

 髪を結び終え、視線を逸らすドレットの姿に、テレサは両手で口を覆い驚愕した。


「とてもお似合いです!」


 自分の事のように笑うテレサから視線を逸らしたドレットは、もう1つ、小包を取り出す。


「こっちなら、いいだろ」

「これは?」


 首を傾げながら小包を受け取ったテレサは、もう一度丁寧に中身を取り出す。


「……!」


 そこにあったのは、ドレットの髪飾りと同じ宝石が使われたヘアピンであった。

 眼を見開き驚くテレサからヘアピンを受け取り、ドレットは彼女の髪に優しくそれをつけた。


「これも俺に、とは言わないよな」


 テレサの髪に優しく触れながら、ドレットは微笑む。

 テレサは顔を更に赤らめ、鼓動を跳ね上がらせる。


「……っ、はい!」


 心の底からの笑顔に、ドレットはテレサの頭を丁寧に撫でる。

 眼を細め笑うドレットを見て、テレサは視線を逸らし、甘んじて彼の手を受け入れる。


「まだ時間はあるが、どうする?」


 テレサの頭から手を下ろし、紅茶で喉を潤しながら尋ねるドレットに、テレサは悪戯っぽく答える。


「なら、先生の白衣を新調しましょう」

「は?」


 両手を合わせて提案するテレサに、ドレットは首を傾げる。

 クスリ、と笑いながらテレサは立ち上がり、ドレットの手を引く。


「先生、白衣のサイズ合ってないじゃないですか」

「いや、それは……」


 すぐに立ち上がらないドレットを、テレサは腕を引っ張り立ち上がらせ、そのまま商店街の方へ歩き出す。


「行きましょう!」


 楽しそうに笑うテレサを止める訳にもいかず、ドレットは溜め息を吐きながら、テレサの手を握り返し歩き出した。




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