第53話 魔宝石店
「まぁ……!素敵!」
目的の店にたどり着いたテレサは、ショーウィンドウの中を覗いて歓喜の声を上げる。
色とりどりに輝く魔宝石は、道行く人を立ち止まらせ、テレサの眼を奪った。
「入んぞー」
見惚れているテレサに声をかけ、ドレットは店の中へ足を入れる。
慌ててテレサはドレットの後を追い、店内を見渡す。
「まぁ……!!」
店内では、それぞれの分野に区切られ、整頓された魔宝石達が個性豊かに光り輝いていた。
2人は、ハル達の魔術格闘祭出場条件でもあった宝石の譲渡による倉庫不足分の買い出しに来ていた。
「あいつらが持ってったのは……」
眼を輝かせ、店内を歩き回るテレサから離れ、ドレットは目当ての魔宝石を手に取っていく。
ガラスケースに1つ1つ丁寧に収められたそれを、ドレットは壊すことの無いよう注意を払って買い物籠に入れていく。
「随分とたくさん買うんですね」
ドレットの持つ買い物籠を覗き込み、テレサは意外そうに呟く。
教え子の反応に、ドレットは興味無さそうに答える。
「まぁ、俺の趣味だからな」
「趣味……?」
また1つ、籠に宝石を入れながら店内を歩き回るドレットの後を追いながら、テレサも宝石を手に取る。
「それは、火を使う魔術の威力を上げるためのものだな」
赤く光る魔宝石を手に取ったテレサに、ドレットは後ろから説明をする。
いきなり声をかけられたことで宝石を落としそうになりながら、テレサはドレットへ振り向いた。
「お前には、こっちの方がいいだろ」
少し離れた場所にあった宝石を手に取り、ドレットはテレサへ渡す。
紫色に妖艶に輝く魔宝石に、テレサは眼を奪われた。
「これは、魔術の有効範囲を絞って威力をあげるものだ。お前に丁度いい」
テレサの魔術は、物体に語り掛け、自由に物体を操るものだが、威力が弱い欠点があった。
そこで、語り掛ける物体を少なくする代わりに威力を底上げすることをドレットは提案した。
「こ、これ買います!」
テレサはドレットを見上げ、力強く宣言する。
教え子の反応に、ドレットは困った様に笑った。
「買うのはいいが、値段がなー」
ガラスケースに張り付けてある値札表を見て、テレサは悲鳴を上げる。
その値段は、テレサのお小遣い3か月分であった。
泣きながら宝石を元の場所に戻すテレサを面白そうに笑いながら、ドレットは1回り小さい宝石をテレサに差し出した。
「同じ宝石だ。お試し用で、値段も抑えられてるから」
少し拗ねながらテレサは宝石を受け取る。
頬を膨らませるテレサを見て、ドレットは微笑み、優しく頭を撫でた。
ドレットの手に、機嫌を直したテレサは、店の隅に置かれた髪留めに眼を付けた。
「あら?」
緑に光る魔宝石が飾りとなっている髪留めを見て、テレサは動きを止めた。
ドレットはテレサの行動に首を傾げ、後ろから覗き込みながら声をかける。
「欲しいのか?」
いきなりかけられた声に、テレサはビクリ、と肩を震わせる。
慌てて振り返り、ドレットの言葉を否定する。
「ち、違います! あ、お会計済ませてきますね!」
誤魔化すようにその場を離れたテレサを眼で追った後、ドレットは髪留めに視線を落した。




