第49話 休日
アインフォード王国中心部に位置する王国最大の商店街、リィンカート通り。
休日はもちろんのこと、平日は主婦層により大賑わいを見せるこの商店街。
そんな商店街にあるシンボル、青銅で作られた大鐘を最上階につるす塔の下、1人の魔術講師が人を待っていた。
「やっぱ、早かったかー」
大きく溜め息を吐き、街行く人を眺めながら暇をつぶす彼を物陰からテレサは見つめていた。
「……!!」
(ドレット先生……!? こんなに早く来るなんて……!! てっきり最後に来るんだと思っていたわ。というか、なんで私隠れているの!? でも、今日のドレット先生、凄く……)
「かっこいい……」
普段、身なりに気を遣うことの無いドレットが気を遣った。
髭をきちんと剃り、直前に食事でもしたのか、心なしか顔色もよく、髪は梳かされ、後ろで1つに結ばれていた。
そんなドレットの姿に、テレサは不覚にも動揺する。
(なんで……!? てっきり、今日もいつものような感じで来ると思っていたのに!! ええい、声、かけちゃえ!)
「……っ、先生!」
物陰から出たテレサは、小走りでドレットに駆け寄る。
柔らかい素材のトップスにキュロットを合わせたテレサは、清楚で、それでいて大人びた雰囲気を醸し出していた。
「お、……!?」
「……? どうしました?」
テレサの私服を初めて見たドレットは、一瞬固まり、ふい、と視線を逸らす。
ドレットの行動に疑問を感じたテレサは、首を傾げ尋ねた。
「……なんでもねぇよ」
「わっ」
教え子に素直に教えることもできず、ドレットは誤魔化そうとテレサの頭を乱暴に撫でる。
予想外の行動に、テレサは照れながら髪を整える。
「温かくなりましたね」
「そうだなぁ」
5月も近くなったこの日、魔術格闘祭翌日の日曜日。
比較的暖かいく、桜も散り始め、ショッピングにはもってこいの天候であった。
「おまたせ~!!」
残りの4人が来るまで、談笑でも、とテレサが話始めた時、ティアナが2人に声をかけた。
ブラウスにノースリーブのベストを重ね、シフォンスカートを合わせたその姿は、シンプルながら幼さを見せないバランスの良さがあり、ティアナのセンスが表れていた。
「まだ10分前よ、ティアナ」
「よぉ」
「ドレット先生!?」
走り寄る彼女に2人は声をかける。
テレサに笑顔を返した後、ティアナもやはり、ドレットの姿を見て眼を丸くする。
「ちょ、テレサ!」
「ドレット先生、一番で待ってたのよ」
「そうじゃなくて!」
整えられた容姿に、ティアナは驚愕する。
そんな親友の反応を面白そうに眺めるテレサは一度とぼけて見せた。
「本当、びっくりよね。ドレット先生がちゃんとした身なりで来てくださるなんて」
「てっきり、いつも通りかと……」
「お前らなぁ……」
教え子2人の反応に、ドレットは再度大きく溜め息を吐く。
ティアナは様々な角度からドレットを眺め、テレサはドレットの髪留めを見る。
「よぉ、お前等」
何をしているのか分からない3人に、アルフは歩み寄りながら声をかけた。
白いTシャツに黒いパンツ、腰にはデニムシャツを巻いた彼の姿に、再度ティアナは眼丸くする。
「アルフ……!?」




