第4話 魔術試験
午後、優しい日差しと心地の良い春風により、眠気を誘われる中、2年2組は休み明け魔術試験を行っていた。
内容は簡素なもので、的である人形を壊すこと。
呪術以外であれば、どんな魔術を用いてもよいので、1人ひとり、得意とする魔術を用いて自身の技量を示す。
「次、ティアナ」
ドレットの静かな声がティアナを呼んだ。
「はい」
1つ、返事をした後、ティアナは一歩前へ踏み出す。
目を閉じ、右腕を前に静かに伸ばす。
全身の神経を右腕に集中させ、その身に神を宿した。
「風の女神、ゼピュロス!」
凛とした声が告げる。
彼女が得意とする魔術は、神降ろし。
彼女が神の名を告げることでその力を借りる。
前に伸ばした右手から、突如として現れた豪風は、真っ直ぐ人形に向け突き進んだ。
「あー、流石と言ったところだな」
ティアナの起こした風は、人形の胸部のみを貫き、未だ直立する人形に感嘆の声が上がる。
「いつ見ても凄いわ。流石ねティアナ」
親友を褒め称える声を聴いて、テレサはティアナへ嬉しそうに声をかける。
「ありがとう、テレサ」
親友に褒められたティアナもまた、嬉しそうに答えた。
笑いながら褒め合うその2人の姿は、誰から見ても釘付けになるほど美しいものだった。
「次、テレサ」
ティアナの点数を付け終えたドレットは、また気怠そうに名を呼ぶ。
「はい」
優しい声で返事をし、テレサは、一歩進み出る。
1つ、深呼吸をした後、テレサは辺りを見回した。
人形の足元に生えているワラビに眼を留め、テレサは微笑む。
テレサは右手に持つ杖をワラビに向け、優しく、それでいて威厳を込めて告げた。
「我の導に従い、その力を示せ!」
すると突然、人形の足元に生えていただけのワラビは、足に絡みつき、そのまま成長を始める。
人形の首にまで巻き付いたワラビは、そのまま人形を絞め壊した。
「まぁ、合格」
正確に機能した魔術に、胸を撫で下ろし、緊張を隠しきれなかったテレサはいつもの優しい笑みを取り戻す。
「やったね、テレサ!」
親友の合格を心から喜び、ティアナはテレサに抱き付く勢いで走り寄った。
それを見て更に綻ぶテレサは、杖を腰のホルダーに仕舞い、両手を開いてティアナに向ける。
すぐに彼女の意図を汲み取ったティアナは、同じように両手を向け、心地よい音を鳴らした。
「ほんと、どうなってるか分からないわ」
「周りに話を聞いてくれそうな子がいたら、その子に語りかけているだけよ」
テレサの魔術跡に目をやり、ティアナが呟く。
それを見て、テレサは面白そうに答えた。
「私は、ティアナの魔術の方が分からないわ」
「あれは…」
首を傾げて問うテレサに、ティアナが答えようと口を開くが、それをドレットの声が遮る。
「次、ハル」
ドレットに呼ばれた名を聞き、ティアナの背筋は自然と伸びる。
自然と向けた視線の先に、左手をポケットに入れて立つ、ハルがいた。