第3話 食堂
「ティアナ、お昼食べに行きましょう? ね? イチゴタルト買ってあげるから」
テレサはご機嫌斜めのお姫様に一生懸命声をかける。
ティアナの好物であるイチゴタルトを出しながら、テレサは彼女の腕を引っ張り立ち上がらせた。
「そんなに急かさなくても、ちゃんと行くから……」
「本当!? よかった……」
呆れる彼女に、安堵するテレサ。
そのまま並んで教室を後にする2人は、真っ直ぐ食堂へ向かった。
この学園の食堂は、それぞれ分野ごとに異なったお店が並ぶ、フードコート形式を取り入れている。
パスタ、ステーキ、ファストフード。
デザートはケーキからアイスクリームまで。
それぞれのお店で自由に買って食べることのできるフードコートは、学園内でも一、二を争う贅沢な場所である。
ティアナはパスタを、テレサはグラタンを注文し、その後にケーキ屋へ足を運ぶ。
色とりどりの美しい芸術品が並ぶショーケースの中から、お目当てのタルトを探す。
「あ、イチゴチーズケーキタルトが残ってる……。でも、ガトーショコラも捨てがたいかな……」
例外なく、ティアナも美しいケーキの前で悩み始めた。
そんな彼女を少し嬉しそうに眺め、テレサは1つ提案をする。
「私、ガトーショコラ食べたかったの。ティアナはイチゴチーズケーキタルトにして、半分こしましょ?」
「ほんと!?」
今日久しぶりに見せる彼女の笑顔に、テレサはようやく肩の力を抜いた。
そしてテレサは胸をなでおろし、優しく笑う。
お目当てのケーキを手に入れた2人は、テラス席に座り、それぞれのランチを口に運ぶ。
ほっと落ち着く味に、ティアナの表情は緩まる。
それを見るテレサは、つられて嬉しそうに笑う。
2人とも急ぐことはなく、ゆっくりとランチを食べ終えると、お楽しみのデザートに手を付けた。
「はい、ティアナ。あーん」
ガトーショコラを一口、ティアナの目の前に差し出すテレサ。
それを見て慌てるティアナはすぐには断ることができない。
「え、テレサ!? 人が見てる……」
「いいじゃない。ほら、あーん♡」
一向に引く気がないテレサは、ティアナの口にフォークを近づける。
結局ティアナが折れ、照れながら口を開いた。
「あ、あーん……」
口に入れただけでホロリと崩れるケーキは、濃厚なチョコレートの味がした。
頬が落ちそうになるのを手で受け止め、ティアナは悶絶する。
「ん~! 美味しい!」
「ここのケーキ、すごく美味しいものね」
自分も一口食べながら、テレサはティアナの感想を肯定する。
幸せそうな彼女の顔を見て、テレサはますます嬉しそうに笑った。
「ほら、テレサも。あーん」
イチゴチーズタルトを一口差し出すティアナに、テレサは、今度はきょとんとした顔で返す。
「え?」
「半分こっていったでしょ?」
テレサが固まっている理由がわからないティアナは、自分の思っていることを正直に話す。
するとテレサは、たちまち綻んでティアナの好意に甘えた。
「そうね、あーん」
サクッとした生地を酸味のあるチーズが包み込み、甘いイチゴがそれを引き立たせる。
甘すぎることなく、また飽きることのない美味しさに、やはりテレサも頬に手を当てて笑う。
「美味しい」
「えぇ、本当に!」
2人で仲良くデザートを楽しみながら談笑する。
お茶を飲みながら笑いあう彼女たちの姿は、まるで王宮庭園でアフターヌーンティを楽しむ貴族のようだった。
「そういえば、今年、凄い子が入学したんだって」
ふと、手を止めて、テレサがティアナに話題を投げかけた。
「へー、どんな子?」
「確か……、銀髪が綺麗な紫の眼をした子だって。魔術の成績が凄くて、ティアナに匹敵するそうよ」
「私に?」
ティアナは、この学園に入学してから、負けを知らない。
特に魔術においては無双を誇っている。
そんなティアナに匹敵する新入生というのは、イレギュラーと呼ぶにふさわしかった。
「どんな子なんだろう……」
その時、ティアナの視界に、銀髪の女の子が僅かに映りこんだ。
ハッ、とティアナはすぐさま辺りを見回すが、そのような容姿の生徒はどこにもいない。
「どうしたの?」
「え? あ、なんでもないの」
親友の不思議な行動に、テレサは訝しむが、適当にごまかしたティアナは、腑に落ちぬままに談笑に戻っていく。