第33話 開幕
「さあ! 総勢16組により行われた魔術格闘祭の頂点を決める決戦が、今開かれようとしています!!」
「今年は、出場組数少ないですよね」
「まあ、メリットが少ないからなぁ」
5人は、食堂から東ゲートまで移動していた。
司会の声を聴きながら、テレサはドレットに語りかけた。
「決勝は特殊ルールだから、気をつけてね」
テレサは、ティアナとレイの手を取り、念を押す。
そんな彼女に、ティアナは嬉しそうに笑い、レイは困惑する。
「魔術格闘祭決勝は、特殊ルールが適応されます!! どちらかのチームが全員場外となるまで試合は終わりません!! この特殊ルールに、アルフ選手はどう対応していくのでしょうか!!??」
「んなもん、精神干渉して気絶させた後、普通に放り出すに決まってんじゃねぇか」
司会の発言に、ハルは頭を掻きながら、呆れた声を漏らす。
もっともなハルの言葉に、4人は苦笑した。
「テレサ、一応確認なんだけど、魔力供給を2回発動する可能性ってあるの?」
ティアナの純粋な質問に、テレサは顔を歪め、首を横に振る。
危惧している点である為、テレサの隣でドレットもまた顔を顰めた。
「午前中に既に一度行っているでしょう? それなのに決勝で2回も発動するなんて、それこそ死にに行くようなものだわ」
アルフの連続大規模魔術発動の要である魔力供給は、必ず一度だけである、と断言するテレサに、ティアナは安心したように肩の力を抜く。
「そうよね、考え過ぎよね」
「さあ、選手の入場です!!」
ティアナが終始心配し続けるテレサに笑いかけた時、司会が選手を呼ぶ声がした。
「そんじゃ、暴れんぞ!」
ハルが先頭を切って歩き出す。
勇ましい声をかけられたティアナとレイは、顔を見合わせ、同時に踏み出した。
「ティアナ、」
最後に1つ、とテレサがティアナに声をかける。
足を止め、振り返る3人に、テレサは言葉に悩み、それでも簡潔に言葉を叫んだ。
「勝ってね!」
「えぇ!」
笑顔で答える3人に、テレサは安堵したように、ようやくいつもの笑顔を見せる。
そんな教え子の姿に、ドレットは1つ、笑いながら溜め息を吐き、テレサの頭を乱暴に撫でた。
「東ゲートから登場するのは! 完全無双!! ここまでの3試合で一度も傷を負うことなく決勝に勝ち上がった1、2年混合チーム!!! 彼女らは果たして、アルフ選手の洗礼を見事潜り抜けることができるのか!!?? 見物です!!!」
相変わらず大げさな司会に呆れながら、3人はフィールドに上がる。
その顔には不敵な笑みが浮かび、その視線は向かってくる対戦相手を捉えていた。
「さあ対するは!! まさに圧勝!! 全ての試合を一瞬で終わらせる覇王!! アルフ選手率いる2年連続王者!! 3年1組トリオ!!! これまですべての対戦相手に一歩も動くことを許さなかった彼らは、勝利の女神相手に、やはり一瞬で勝負をつけるのか!!??」
会場を煽る司会の言葉と同時に、アルフら3人は、西ゲートより入場し、フィールドに上がる。
自分たちを射抜くその視線を受け、ニヤリ、とアルフは口角を上げ、彼もまたティアナら3人を視線で射抜く。
その姿は見るものを威圧し、客席にいる生徒をも震え上がらせるほどであった。
「やはり、彼はすでに仕掛けているのですね」
その姿に、レイは静かに呟く。
妹の呟きに、ハルは小さく答える。
「あぁ、それでも関係ねぇよ。やることは1つだ」
静かに、それでも威厳を込めて強く答えるハルに、レイは安心したように笑顔を見せた。
「はい」
「さあ、大注目の決勝戦、開幕です!!!」
レイの芯の通った声に被さるように、開幕の合図が響く。
格闘場は歓声に揺れ、選手達の眼には闘志が灯る。
ハルとアルフは、ギラリ、と眼を光らせ睨み合い、口角を上げた。
「「いくぞ」」




