第29話 時空
「蔦ァアァ!!!!」
あるだけの力を注ぎこみハルは叫び、両手を力強く振り下ろす。
格闘場は大きく揺れ、フィールド全体に無数の蔦が発生した。
「我の導に従い、その力を示せ! 天舞鳳凰!!」
「風の女神、ゼピュロス!!」
足元に発生した蔦の上で上手くバランスを取りながら相手へ走り寄り、2人は合体技を繰り出す。
バランスを崩した対戦相手は避けることができないと思われたが、その予想は裏切られる。
「我の導に従い、その力を示せ」
髪を1つに結んだ少女は、迫りくる斬撃に魔術を発動する。
すると斬撃は少女らの目の前で制止し、そのまま突風を巻き起こし消滅した。
「物体だけを止めるなら、発動時間にズレはないの……!?」
あっさりと防がれた斬撃に、ティアナは眼を見開く。
蠢く蔦に慣れ始めた姉妹は、手をつなぎ、魔術を展開する。
「「我の導に従い、その力を示せ」」
「また……!」
今度こそ、と発動されたそれに、ハルは蔦を叩き付ける。
しかし、軽くかわす対戦相手を見て、ハルは叫んだ。
「ティアナ!!」
「時間と運命の女神、アトロポス!」
両手を重ね前に伸ばし、ティアナは叫ぶ。
ティアナの魔術発動までのロスタイムはわずか2秒。
レイはティアナの魔術発動に合わせ、刀を抜いた。
「我の導に従い、その力を示せ! 朱雀乱舞!!」
「「……発動」」
少女達から静かに告げられた時、世界が止まった。
術者を残し、世界は動きを止める。
対戦相手の2人は、まずゆっくりとレイに近づき、場外へ突き落そうと手を伸ばした。
だが、
「はぁ!!」
「!?」
そこへ、ティアナが飛び掛かる。
驚愕に眼を丸くしながらも、少女達は繋いだ手を離し、ティアナの攻撃を避ける。
素手での攻防に、少女達は避けることが精一杯であった。
この学園では魔術以外にも、素手での格闘術を生徒に叩き込む。
格闘術でもトップの成績を抑えるティアナ相手に、入学してまだ日の浅い1年では、相性が悪かった。
「くっ……」
最初こそ上手く避けていたが、蔦に足元をとられ、少女達は転びそうになりながら、ティアナの攻撃を当たる寸前で避ける。
そんなやり取りを繰り返すうちに、疲弊し始める2人を見て、ティアナは静かに問うた。
「なぜ、あんな真似をしたの?」
ティアナの指す事柄が、妹の自爆であると気付いた長い髪の少女は、静かに口を開く。
「……私達の時空操作は2人いれば十分」
「だから、必要のない一番下の妹を犠牲にした、というのね?」
こくり、と小さく頷く少女達を見て、ティアナは拳に力を込める。
怒りで震える拳を押さえこみ、ティアナは姉妹へ向け叫んだ。
「なら、貴女達に勝機はない!!」
ティアナが飛び出した時、ピシリ、と世界に亀裂が入る。
「貴女達は、自分が思っているよりも未熟だわ。時空操作は、貴女達3人が揃ってようやく完成するのよ」
ピシリ、ピシリ、と亀裂は広がっていく。
そんな世界を見て困惑する少女達に、ティアナは更に続ける。
「それを『必要ない』なんて理由で切り捨てるなんて、自分から死にに行くようなもの!」
その時、世界が割れた。
音を立てて割れた世界に、少女は眼を見開く。
「脆く弱い世界は、外から簡単に壊せるのよ!!」
少女達に真っ直ぐ、レイの放った火の鳥が飛んでいく。
混乱から抜け出せない少女達は正面からそれを食らい、真上へ飛ばされる。
「くっ……!」
「終わりだ」
少女の歯を食いしばる声が漏れる中、ハルの冷たい声が告げる。
その導に従い、一束に纏まった蔦は長く、大きく成長し、吹き飛ばされた少女たちを場外へ薙ぎ払う。
「かはっ……!!」
腹部への強い刺激に続き、背中を打ち付ける強い痛みに、少女達は空気を吐き出す。
その様子を場内から見下ろすハルは姉妹へ、告げた。
「妹に与えた痛み、その身に刻み付けろ……!」
妖しく眼を光らせる3人に、少女達は初めて救護班に手当を施されている妹に視線を向ける。
苦しそうにもがく自分の妹を見て、少女達は唇を噛んだ。
「二度と、こんなくだらねぇことすんじゃねぇ……!!」
「終了―!!! 時間と時間を渡り歩き、激戦を制したのは、1、2年混合チーム!!!」
ハルの苦しそうな、悲鳴にも似た呟きは5人の耳にのみ届き、司会の声に塗りつぶされた。
 




