第28話 3回戦
「「「我の導に従い、その力を示せ!」」」
開始と同時に、対戦相手は全員魔術を展開した。
発動までのリミットは5秒。
普通なら相手に届かずにそのまま終わる。
(でも、ハルの蔦なら、5秒以内に相手を拘束できる!)
「ハル!!」
「お兄様!!」
「我の導に従い、その力を示せ! 蔦ァァァ!!!!」
対戦相手と同時に、ハルは魔術を発動する。
両手を振り下ろし、腹の底から叫ぶハルの声で地中に発生した蔦は、格闘場全体を揺らす。
(相手との距離は50メートル。私とレイが走ったとしても約4秒かかる。それじゃあわざわざ死ににいくようなもの。逆に2人同時に魔術を発動しても避けられたらそれまで。なら最初から動かずに、全部ハルに任せる!)
直接対戦相手の足元に出現した多量の蔦は、ブレアの時同様、3人の体に絡みつき、強く締め付ける。
その合計時間わずか4,5秒。
突然湧いて出た蔦に、対戦相手は悲鳴を上げた。
「何!?」
絡みつく植物を振りほどこうと魔術を展開するが、だか逆に魔力を吸われ、更に強く絡みつく蔦に、対戦相手は成す術もなくもがき苦しむ。
「ここまでは順調。あとは放り出すだけ、だが……」
息を吐きだし、相手を見据えるハルは、しかし相手の纏う空気に身構える。
蔦に拘束され俯く長髪の少女が、ポツリ、と呟いた。
「……やりなさい」
「はい、お姉さま」
左端の長い髪の少女が小さく命じた。
それに答える真ん中の短髪の少女は小さく、魔術を唱える。
「我の導に従い、その力を示せ」
魔術を唱えると、短髪の少女が身に着けているペンダントが赤く光る。
蔦に絡まれながら魔術を発動しようとする少女の行動に、ティアナはハルへ問いかけた。
「蔦に絡まれてたら、魔術は発動できないんじゃないの!?」
「蔦にだって許容量あんだよ!」
蔦1本に対し、吸収できる魔力は意外と少ないものだった。
それに加え、力加減をしているため、ブレアの時のように無数の蔦を使うことができず、少女に絡みつく蔦は1人当たり3本のみであった。
「「我の導に従い、その力を示せ」」
両脇の少女は同時に魔術を発動し、自らを守るシールドを展開する。
と同時、短髪の少女を中心に、爆発が起きた。
短髪の少女は衝撃で場外へ吹き飛ばされ、そうでなくとも全身に大火傷を負い、身動きを取ることが叶わなかった。
爆発により蔦から解放された両脇の少女は、自分達の妹を気に掛ける様子もなく、制服についた汚れを払う。
「あいつら、自分の妹に自爆させやがった……!」
瞬時に状況を理解したハルは目の前の光景に激怒し、声を震わせる。
ティアナとレイは、あまりの展開に口を開いたまま、立ち竦む。
「なんと!! 自爆です!! ハル選手の蔦から逃れるために自らを犠牲にするという、素晴らしい姉妹愛を見せました!!!」
司会は的外れな発言で会場を沸かせる。
その言葉にハルは更に興奮する。
「姉妹愛なんかじゃねぇ。あいつら、妹のことをなんとも思ってねぇ……!!!」
「お兄様、どうか落ち着いてください」
今にも目の前の2人に飛び掛かりそうなハルに、レイは静かに声をかける。
しかし、レイの声にもまた怒りが滲んでいた。
「……おい、我慢しろとかくだらねぇこと」
「言わないわよ、安心して」
怒りに肩を震わせるハルに、ティアナは冷静に、それでも聞くものを凍てつかせるほど恐ろしく冷えた声で告げる。
「作戦なんてもう考えなくていいわ。今はただ……」
ハルは右足を踏み込み、ティアナは右手を前に構え、レイは顕現させた魔術刀の柄を強く握る。
そして3人は、声を合わせて叫んだ。
「「「あいつらを教育してやる!!!」」」




