第21話 2回戦準備
「3人共怪我なし。問題ないな。じゃ、この後の試合にも出ていいぞー」
Cブロック控室にて。
ドレットは形だけと言わんばかりの身体検査を行い、2回戦出場手続きを済ませる。
「トラブルがあったみたいだが、まぁ、大丈夫だろ」
そう言って筆記用具を机に放り投げ、ドレットは白衣のポケットからウェダー・ゼリーを取り出し、徐に飲み始める。
その行動に疑問を持ったティアナは、首を傾げた。
「……? 先生、それは?」
「あ? ウェダー」
プラスチックの袋に入ったゼリー状の飲み物を指さし、ティアナは問う。
問われた内容に、ドレットは訝しげな顔をし、答えた。
「ウェダー?」
「おやぁ? お嬢様はそんなことも知らないですかぁ?」
首を傾げるティアナに、ここぞとばかりにいじり倒すハル。
キッ、とティアナはハルを睨みつけ、反撃に出た。
「そ、そんなの知ってるわよ! ほら、あれでしょう? えっと……、そう! 魔力供給用の!」
「ウェダー・ゼリーとは、いわば栄養補給特化ゼリーです。そのため、魔力供給においては、効果は一切ありません」
眼を泳がせながら答えるティアナの横から、レイが冷静に正答を告げる。
ニヤリ、と滑稽なものを見るハルの眼から逃げるべく、ティアナは顔を逸らす。
「……まぁ、ちゃんと作戦会議ぐらいはしろよ」
用は済んだ、と出ていくドレットを目で追い、ティアナは溜め息を吐く。
「あのゼリーだけで食事を済ませているから、あんなに顔色が悪いのね……」
肩を落とし落胆するティアナをよそに、ハルは椅子に座り、足を机に乗せる。
レイは何も言わず、静かにハルの隣に座り、魔術刀を顕現させた。
「今回は刀を持っていくのね」
「ドレット先生に、違反ではないと言われましたので」
ハルの正面に座ったティアナの質問に、レイは鞘を強く握りながら答える。
前回は試合が始まってから刀を顕現していたレイだが、それは一定のタイムロスを意味する。
試合中の失態から、3人の中で緊張感が一番高いレイは、万が一に備えて滞りなく準備を進めていた。
「気張んなって。何かあってもちゃんと助けてやっから」
椅子の背凭れに寄りかかり、妹へそう告げるハルに、ティアナは視線を向ける。
「そういえばあんた、ちゃんとした詠唱もできるのね」
「あ?」
魔術の基礎、それは物体に対する呼びかけ。
その詠唱が『我の導に従い、その力を示せ』の一節。
この世界の魔術師は、何か物を操るとき、その一節がなければ魔術を発動することができない。
「あれはカモフラージュにきまってんだろ」
ティアナが何について問うているのか、ハルは一瞬考え。
1回戦でのハルの詠唱を指摘したティアナを鼻で笑いハルは答えた。
「なっ……!」
「あんな大勢の前で詠唱無しで魔術なんか発動してみろ。とんでもねぇことになるぜ」
(確かに、魔術格闘祭は全校生徒の注目の的。そんなところで詠唱無しなんて暴挙に出たら……。注目を集めるだけじゃなくて、力試しに襲われる可能性もあるわね)
ハルの言葉に納得し、頷くティアナを、ハルは顔を歪めて見つめる。
「そういうお前だって、詠唱無いだろ」
「……え?」
ティアナは、魔術を発動するとき、神の名のみ告げる。
そのことを今更気付かされたティアナは、ハッ、と口元を手でふさぐ。
(そうだ、私、詠唱していないわ。でも、お父様も、魔術を使う時は詠唱していらっしゃらなかった。何か理由でも……?)
そう考察を始めるティアナを観察するハルは、1つ、溜め息を吐いて口を開く。
「今は取り敢えず作戦会議だ。俺は別に一回戦と同じでもいいと思うが……」
ちらり、とハルはレイを見る。
強く鞘を握るレイの手は震えており、表情は硬く緊張していた。
「……」
「気張んな、大丈夫だから」
少し力を込めて、だが目線はレイに向けないままでハルは言葉を投げる。
それでも尚硬いままのレイを見て、ティアナは1つ提案した。
「なら、こういうのはどうかしら?」




