第19話 作戦の意図
ティアナは、目の前に迫りくる斬撃に、成す術もなかった。
速度が上がるたびに威力も増すその斬撃には、防御も意味をなさない。
(あれは、防げない! 今から避けても間に合わない!)
その場から動くこともできず、ティアナは斬撃を前に眼を固く瞑る。
もう駄目だ、と覚悟したその時、
「蔦ァ!!!!」
ティアナは自分の背後に魔力を感じた。
と同時、ティアナの足元が揺れ、爆音と同時に大量の蔦が発生する。
幾重にも重なった蔦は、斬撃の直撃を食らい、1本、また1本と貫通されていくが、貫通されながら魔力を吸いあげ、斬撃の威力を確実に落としていく。
そして蔦は、ティアナの1本手前で斬撃を食い止めた。
「……?」
(痛く、ない。何かが当たった感触もない。私……、生き、てる?)
ゆっくりと眼を開けたティアナの目の前にあったのは、蔦が作り出した壁だった。
蔦がティアナを覆い、また、衝撃で転ぶことの無いよう、体を支えていた。
ティアナには、この蔦に見覚えがあった。
(この蔦って、あの時の……。なら、さっきの魔術は……!)
ティアナは、すぐさま振り向き、ハルを見る。
右手を開いたまま振り下ろした状態で立っているハルは、まさしく魔術を発動した痕跡そのものだった。
「ハル……!」
***
レイは足を止めてティアナを見つめる。
「避けて!!」
もうダメだ、と。
そう思いながらもレイは叫ばずにはいられなかった。
不覚だったと、後悔しながら眼を逸らしたその時、
「我の導に従い、その力を示せ! 蔦ァ!!!!」
聞きなれた、レイの敬愛する兄の声が響く。
まるで希望に縋る様に、レイは逸らした視線を、2人へ向けた。
「お兄様!」
すると突然。
地響きとともにフィールド全体が揺れ、爆音とともに大量の蔦が発生した。
蔦は薄く壁を作ると、斬撃に向かって束になり伸び始めた。
斬撃と蔦が衝突すると、1本、また1本と縦に亀裂を走らせながら貫通していくが、徐々に魔力を吸われ、斬撃は壁状の蔦の手前で消滅した。
(あれは、お兄様の魔術。でも何故? ……まさか、後衛に自分を配置したのはその為ですか!? お兄様!!)
足を止め、レイは勢いよくハルの方へ振り返る。
こうなることを知っていたかのようにニヤリと笑う兄に、レイの鼓動は高鳴った。
「レイ! やれ!」
ハルの言葉に、ハッと我に返ったレイは対戦相手へ視線を戻す。
相手はまだ、突如発生した大量の蔦に理解が追いつかないようで、呆然と立っているのみであった。
(動いていないのならば、確実に決められる!)
魔術刀を鞘に戻し、レイは柄を握り直す。
レイは、右足を一歩踏み出し、魔術を発動した。
「我の導に従い、その力を示せ! 天舞鳳凰!!」
刃から放たれたのは、鳥の形を模した突風。
風の鳥は、迷うことなく2人の対戦相手へ飛んでいき、2人を場外へはじき出した。
「「うわあぁああ!!!」」
場外へ飛ばされた2人は、そのまま倒れ込み、救護班に運ばれていった。
レイは肩の力を抜き、魔術刀を鞘へ戻し、ハルとティアナに向き直る。
「終了―!!!! 1回戦Cブロック勝者は、1、2年混合チーム!!!」
1回戦、終了!!