第18話 1回戦
「私率いるって、聞いてないわよ?」
「お前がリーダーの方が納得しやすいだろ」
余裕を含んだ笑みで答えるハルを見て、ティアナは呆れることを諦めた。
「さぁ、開戦です!」
「いくぜ」
開戦の合図と同時にティアナとレイは真っ直ぐ走り出した。
ティアナは右腕に神経を集中させ、レイは魔術刀を顕現する。
対戦相手はティアナに1人、レイに2人が走って向かってくる。
ティアナは真っ直ぐ対戦相手を見つめ、立ち止まり、右手を構えた。
「風の女神、ゼピュロス!」
ティアナを中心に巻き上がる風は、1つに集まり突風となり、一直線に対戦相手に向かって放たれる。
それを見た3組の生徒は右手に持つ杖を足元に向け、魔術を発動した。
「我の導に従い、その力を示せ!」
突如、フィールドを構成している石畳が何枚かが剥がれ、攻撃を防ぐための壁を形成する。
しかし、ティアナの起こした突風はこの壁を容易く崩し、対戦相手に直撃する。
「ぐあぁあ!!」
ティアナの突風により、対戦相手は場外へと放り出され、そのまま気絶した。
自分の攻撃が成功したことを確認したティアナは、不敵に笑う。
「加減したから、怪我はないはずよ」
場外となった生徒に救護班が駆け寄る姿を見て、そうつぶやくティアナの耳に届いたのは、はたまた。
歓声ではなく、テレサの悲鳴だった。
「ティアナ! 危ない!!」
***
レイは向かってきた2人組を見て、狙いを定める。
(2人組……。なら広範囲攻撃の方が有利。しかし、捨て身の攻撃に出られたのなら、相手にチャンスを与えることになる)
「「我の導に従い、その力を示せ!」」
様々なパターンを予想し、レイは迎撃態勢を取る。
レイの心配をよそに、対戦相手は2人同時に魔術を発動した。
石畳が剥がれ、その形を保ったまま、レイに向かい飛んでくる。
対戦相手の行動に、レイはすかさず魔術を展開した。
(それなら、全て打ち落とすだけ!!)
「……我の導に従い、その力を示せ!」
レイは足を止めず、柄を握る右手に力を込める。
そして、全ての飛来物めがけて魔術を発動した。
「流鏑馬!!」
魔術発動とともに抜いた魔術刀から、細い斬撃がまるで水滴のように飛び出した。
無数の斬撃は、様々な方向へ飛んでいき、飛来する石を砕き、破壊する。
(これで、決める!)
足を止め、次の魔術を繰り出そうとする対戦相手めがけて、レイは更に踏み込む。
その時耳に入ったのは、聞きなれた先輩の悲鳴だった。
「ティアナ!!」
その声に、言葉に、レイは瞬時に理解した。
魔術を発動する手を止め、レイはティアナへ視線を投げた。
(しまった! 飛来物を狙ったせいで標的を絞り切れなかった。このままだと、あの人に、魔術が当たる……!)
レイの魔術刀から出た斬撃は、真っ直ぐにティアナへと飛んでいく。
気付いた時にはすでに、レイが止めに入ったところで間に合う距離ではなかった。
(あれが人に当たったら……! 避けて、お願い! 避けて!! ……お兄様!!)
石を砕く為に繰り出した斬撃は、通常より強度が増しており、人体に当たれば内臓はもちろんのこと、骨もろとも砕ききるほどの威力であった。
レイの願いは通じず、ティアナは避けるどころか動く気配すらない。
もうダメだ、とレイが眼を瞑ったその時。
「我の導に従い、その力を示せ」
「蔦ァ!!!!」