第17話 作戦会議
「さぁ、盛り上がってまいりました! 魔術格闘祭! お次はCブロック! 東ゲートから登場するのは、今年の注目チーム! ティアナ選手率いる1、2年混合チームです!」
格闘場に歓声が響き渡る。
東ゲートから登場したのは、堂々と、凛々しく歩く3人。
ティアナを先頭に、レイ、ハルの順に続く。
全校生徒が見ている前でも物怖じすることなく歩く3人の姿に、女子から黄色い悲鳴が上がった。
「まさか、本当に練習なしで出場するなんて……」
「お兄様の言うことなんですから、間違いなんてあるはずがありません」
歩みを止め、対戦相手に向かって横に並んだ3人。
呆れた顔で言うティアナに、レイは誇らしげに笑う。
「さぁ、対戦相手は! 2年3組の仲良しトリオ!」
それは、一週間前に遡る。
***
「ちょ、練習しないって正気なの!?」
ドレットから出場を言い渡されたあの日以来、放課後は4人で過ごすようになった。
そんな穏やかな時間に、ティアナはハルへ掴み掛かった。
「だってお前ら、練習中に仲間割れするだろ?」
肩を竦めて告げるハルに、言い返せないことにティアナは顔を歪める。
ハルの言葉に含まれいるレイは、そのことを気にも留めず紅茶を楽しんでいた。
「でも、お互いどんな魔術を使うのかわからないのは、不利なんじゃないかしら?」
宥めるように告げるテレサの言葉に、ティアナは首を振って同意する。
騒がしい、と言いたげにレイは溜め息を吐き、ティーカップから手を離した。
「私の魔術は、刀を触媒にしたものです。ですので、斬撃系になるでしょうか?」
両手を膝に置き、背筋を綺麗に伸ばし座るレイがケーキを眺めながら答えた。
それに続き、ハルもまた口を開いた。
「んで、ティアナが神降ろし。言霊でもいいがな。なんでもありってことだ」
ティアナの魔術を横から説明するハルは、紅茶を一口飲み、ティアナを一瞥する。
自分の言葉を奪われたティアナは頬を膨らませ、ふと、レイを見た。
「そういえば、レイ、刀はどうしたの?」
何も所持していないレイを見て、ティアナは純粋な疑問を投げかける。
レイはそんなティアナを哀れなものを見るような目で見つめた。
「常に現物で持ち歩いているわけがないでしょう。あれは、空気中の魔術で構成されていますから、必要な時にいつでも顕現できます」
そういって手を合わせたレイは、両手に神経を集中させる。
すると、レイの周りにふわりと風が起こり、綺麗な銀髪を弄ぶ。
ぐっ、と指先に力を込めた後、手を開くと、レイの体を中心に、見事な一振りの刀が構築された。
「まぁ……! これは、極東の国に伝わる、所謂刀なのかしら?」
刀、という言葉自体は講義でも使う為、不自然ではない。
だが見たことのない形の剣に、テレサは興奮してレイに尋ねる。
「いえ、極東のものを参考にしていますが、正確には魔術刀です」
「魔術刀?」
興奮するテレサにまだ慣れていないレイは、困ったように笑った。
聞きなれない言葉に、テレサは首を傾げる。
「魔術に特化した刀のことで、これ自体に殺傷力はありません」
微笑みながら、刀を優しく撫で、レイはテレサに答える。
つられて笑うテレサは、更に問いを重ねた。
「その刀は、一振りしか出せないの?」
「いえ、空気中の魔力量にもよりますが、この場所なら最大三振りまで同時に出せますよ」
更に刀を顕現させるレイに、テレサは嬉しそうに声を上げた。
楽しそうに会話を重ねる2人を見て、ティアナは寂しそうに微笑む。
「なんだ? 親友をとられて寂しいのか?」
そんなティアナを横目で見て、紅茶の入ったティーカップを弄びながら、ハルは言葉をかける。
ハル対して素直になれないティアナは、反発する様に顔を逸らした。
「そ、そんなんじゃないわよ。あんたこそ、妹とられて寂しいんじゃないの?」
「俺は……、レイが嬉しそうに笑ってるなら、寂しくねぇよ」
頬杖をついたままこちらを向き、優しく微笑むハルの表情に、ティアナはドキリ、と鼓動が跳ねる。
(……! なんで私、こんな奴にドキドキしてるのよ!? いきなりキ、キ、キス迫ってくるような最低野郎なのに!)
ふい、と逸らした視線を、またティアナはハルに戻す。
同じ姿勢で自分を見ているハルに、やはりティアナの鼓動が跳ねる。
しかし、今度はそのまま視線を外すことなくティアナはハルへ微笑み返した。
「……お兄さん取られて不満?」
今度は、そんな2人を見て不機嫌になったレイに、テレサは面白そうに話しかける。
ふざける様子もなく笑うテレサに、レイは慌てて両手を振って否定した。
「あ、あんな人にお兄様を取られるはずがありませんから!」
弁解しようと百面相するレイを、テレサはますます面白そうに笑う。
必死に否定するレイを、テレサは笑顔で受け止めた。
「で、そろそろいいか? レイ」
突如、ハルはレイを呼んだ。
兄の呼び声に、レイはすぐさま姿勢を正して見せた。
「はい、お兄様」
「じゃ、作戦会議って訳だけど。俺の魔術は2人とも知ってるからいいな?」
しっかりと返事を返したレイを見て、ハルは体を起こし、足を組み直して言葉を紡ぐ。
その言葉に、ティアナとレイは、静かに頷き、肯定を示した。
「なら、話は簡単だ。ティアナとレイ。お前らが前衛、俺が後衛。お前らは何も考えずに戦えばいい。後は俺に任せろ。いいな?」