第132話 行ってこい
半年ぶりの更新となります!
お待たせいたしました!!
「ありがとよ」
背を向ける三つ子に、ハルは小さく手を振る。
閉まった扉から視線を外し、ハルは天井を見上げた。
「強すぎんだろ……」
「お疲れ様です、お兄様」
糸が切れた様に、ハルは大きく項垂れる。
両腕は重力に任せ垂れ下がり、動く気配がない。
ハルにとって、ティアナとの一騎打ちは過酷なものだった。
魔力量のハンデを背負うハルは持てるすべてを利用する再生の無限。
対してティアナは絶対の力で王道を進む孤高の一。
(分かってはいたが、やっぱり強ぇな、王族は)
相性でいえば、共闘なら最良、対立なら最悪となる。
今にも魂が抜け出そうな兄に、レイはコーヒーを差し出す。
「淹れたてですよ」
「……ありがとう」
「ブレアさんからの差し入れです」
「ん?」
レイは、小皿に盛られたマカロンとサンドイッチ、それと1枚のメモをハルの前に置いた。
コーヒーを一口飲み込み、ハルはメモを手に取る。
『虚勢張りまくりでつまんなかったわ。お嬢さんが可愛いのは認める。週末俺の買い物に付き合えよ。』
グシャリ、と音を立てて紙が潰れる。
握られたハルの拳は、確かに震えていた。
「お兄様?」
「あんのクソ変態野郎……!!」
(あぁそうだろうよ!! あの変態強盗野郎なら聞こえてただろうよ!!!)
ハルの脳裏に、笑顔のブレアが浮かび上がり、消えていった。
ブレアを完全に脳内から消し去る為、ハルは大きく振りかぶり、頭をテーブルに打ち付ける。
「お兄様!?」
「……なんでもねぇ」
動揺を隠せないハルに、レイは驚愕で肩を震わせる。
レイはすぐに冷水で濡らしたタオルをハルに手渡した。
「誰にも聞こえねぇと、思ったんだが」
「え?」
「いや、ブレアのクソ野郎って言ったんだ」
「そう、ですか……」
首を捻る妹にマカロンを差し出し、興味を逸らせる。
痛む額を押さえながら、ハルは丸めた紙をポケットへ仕舞った。
動揺を飲み込むように、ハルはコーヒーを口に含んだ。
そこへ、
「おう、復活してるな」
「「!?」」
突然、ドレットが音もなくハルの背後に現れた。
零れるコーヒー。
立ち上がるハル。
足を組んでいた為、上手く立ち上がれず、2度目の頭突きを披露する。
「テメェ……」
「いい加減慣れろよ……」
「いつもはちゃんと扉使うだろ!!」
頭をタオルで冷やしつつ、ハルは扉を指さし抗議する。
普段ならば扉を使って出入りするドレットが、わざわざ魔法を使って控え室に現れた。
ドレットは、肩を竦めながら教え子の指摘に答えた。
「扉を使って入ってきたら、お前たちの母親を連れてきたと思うだろ」
「使わなくてもここに来た時点で連れてきたと思うわ」
「……」
自分に対する信用の無さに、ドレットは元々ない眼の光を更に失う。
念のため、2人は室内を見回し、扉の向こうの気配を探る。
数秒後、ようやく座り直したハルを見下ろしながら、ドレットは溜め息を吐いた。
「まぁ、使いたくても使えなかったからなんだが」
「あ?」
徐々に近づいてくる足音に、ドレットは眼を細めた。
ドレットの言葉と共に、大きく音を立て扉が開く。
ハルが視線を向けるより先に、訪問者の声が控え室に響いた。
「レイ! お待たせ、資料を持ってきたわ!」
「ハル! あんたも手伝いなさい!」
「ここでもマカロン食ってんのか」
満面の笑みで資料を抱えるテレサ。
フィールド修理にハルを呼びに来たティアナ。
ハル達兄妹の様子を見に来たアルフ。
一気になだれ込んできた3人を見、ハルとレイは納得する。
「……なるほど」
「そりゃ使えねぇわ」
「だろ」
呆れたように、驚愕したように、2人は来客を迎える。
ドレットは2人の呟きに静かに頷いて答える。
そんな3人の反応をよそに、ティアナは迷わずハルに詰め寄った。
「てつd」
「断る」
ティアナが言い終わらぬうちにハルは首を振る。
次から次へと言葉が出てくるティアナの口にハルはサンドイッチを放り込む。
「お前も休め」
「……むぐ」
食べやすいよう一口サイズに切り分けられたサンドイッチを、ティアナはゆっくりと味わう。
チラリ、とハルを見上げたティアナは気まずそうに眼を逸らした。
静かになった2人の隣で、テレサはレイに資料を手渡した。
「ありがとうございます」
「本当は、アルフに直接聞いた方が早いと思うのだけれど」
「あ?」
レイとアルフは、資料に眼を落とす。
それは、団体戦の時よりもさらに情報の詰まったハイドの資料。
テレサの資料を初めて見るアルフは、感心したように口笛を吹いた。
「良く調べてある。俺のもあんのか?」
「えぇ。団体戦の時に」
「通りで、初撃で沈まねぇわけだ」
団体戦を思い出しながら、アルフは納得したように頷いた。
資料を読む込むレイに、アルフは静かに補足する。
「確かに、そこに書いてある通りだ。俺はどっちかに肩入れするつもりはねぇから、書いてある以上のことは何も言わねぇ。ハイドは俺達の中じゃ一番地味だが、その分知識はずば抜けてる。お前たちの参謀がテレサなら、俺達の参謀はハイドだ」
アルフはチラリ、とテレサを見やる。
静かに資料を置くレイに、アルフは声を低くし言い放った。
「地味だからこそ、下手したら俺より手こずるぞ」
「貴方のチームメイトを、侮ったりしません」
腕に巻かれたリボンを解き、長い髪を結ぶ。
立ち上がったレイは、真っ直ぐにアルフを見つめた。
その顔に、迷いや憂いは存在せず。
レイは、はっきりと宣言した。
「勝ちます」
芯の通った、力強い声で。
その言葉に、アルフは口角を上げる。
彼女の言葉に、ハル達もまた口元を緩ませる。
レイの成長を感じるその一言は、レイ自身の背中も押した。
「いってきます」
「Bブロック2回戦、開幕です!!!!」
読んでいただき、ありがとうございます!
長い間お待たせしました。
Bブロック2回戦、なるべく毎日更新します!




