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第131話 檸檬味の

一カ月半程、お待たせしました!!

待っていてくださった読者様には、本当に多大なる感謝を……


「お兄様!!!」


 足を引きずりながら東ゲートへ戻ってきたハルに、レイは声を上げる。

 妹の声に、眼を細めて笑うハル。

 そんな兄を見て、ティアナは息を吐く様に笑った。


「私の無敗伝説、よくも破ってくれたわね」

「ハッ! その程度の伝説だったんだろ」

「なんですって?」


 バチバチと、飽きもせず火花を散らす2人に、ドレットは溜め息を吐く。

 笑顔で睨み合う2人に、止める気も起きず。

 ただ溜め息を吐くしかなかったのだ。


「よくもまぁ、あんなにフィールド壊してくれたな……」


 ドレットの言葉に、3人はフィールドへ視線を戻した。

 ハルが魔術を解除したことで蔦が消滅したフィールドは、辺り一面穴だらけとなっていた。

 端的に言うと、見る影もない程に破壊されていた。

 下手すりゃアルフより酷い、とはドレット談。


「修理……。ティアナ」

「わかりました……。魔力が回復し次第、取りかかります」

「頼んだ」


 ドレットは頭をかきながら、ティアナに依頼する。

 溜息を吐くように了承したティアナは、ようやく肩の力を抜いた。


「俺は控え室戻るわ」

「はい、お兄様」


 踵を返したハルに、レイは付き従う。

 そんな2人を、ティアナは声を投げて引き留めようとした。


「ハ、ハル!」

「あ?」


 自分の名を呼ぶ声にハルは振り返らず、足を止めた。

 普段ならばすぐに振り返っているであろう状況に、レイは首を捻る。

 彼の背を見つめ、ティアナは考えていたよりも簡単に、その疑問を口にした。


「可愛い、って、本当……?」

「……」


 頬を赤く染め、上目遣いで、ティアナはハルを見つめた。

 レイとドレットは、驚くことなく彼の言葉を待った。

 背中しか見せないハルは、鋭く息を吐き、大きく酸素を吸った。


「冗談に決まってんだろ、バーカ」


 いつもの調子で、ハルはティアナを馬鹿にする。

 ティアナへひらひらと手を振りながら、ハルはまた歩みを進めた。


「お兄様!」


 慌てて、レイはハルの後を追う。

 ハルの隣に追いついたレイは、兄の顔を見上げた。


「お兄様?」

「黙ってろ」

「……? はい」


 首を傾げるレイに、ハルは冷たく言い放つ。

 再度反対側に首を傾げつつ、レイは正面を向きなおす。

 ハルの顔は、耳まで朱に染まっていた。


「……期待、少しはしたんだけどね」


 寂しそうに、ティアナは笑う。

 両の指を合わせ、眼を伏せる。

 そんな教え子に、ドレットはティアナの頭を乱暴に撫でた。


「ドレット先生!?」

「お前は、優秀なのにこういうのはダメだよなぁ」

「こういうの?」


 ティアナの質問に答える代わりに、ドレットは更に乱暴に手を動かす。

 女性の扱い方なんて知らない、と語るようなドレットの指使いにティアナは何故か瞳を潤ませた。

 ドレットは白衣のポケットから取り出したウェダーをティアナに押し付けた。

 ティアナがそれを受け取ると、ドレットは微笑しどこかへと姿を消した。


「これ、美味しいの?」


 ティアナはウェダーのパッケージをまじまじと見つめる。

 ウェダーのロゴの下に、檸檬味、と記されていた。


「ティアナ!」


 その時、ドレットと入れ替わる様にテレサがティアナへと走り寄ってきた。

 親友の顔に、安堵しテレサは胸を撫で下ろした。


「大きな怪我はないみたいね」

「えぇ、心配しなくても大丈夫よ」

「大怪我でないと分かっていていも心配するわよ」


 少し怒ったように、テレサは言う。

 テレサの反応に、ティアナは照れたように笑った。


「ありがとう」


 ティアナの笑顔に、テレサもまた自然と笑顔になる。

 だが、テレサは彼女の笑顔の中に影を見る。

 テレサは敢えてそれを指摘せず、ティアナに話題を振った。


「そうだ。ハルになんて言われたの?」

「え!?」

「ハルに抱きしめられて、全校生徒の前で……」

「な、な、なんっでも!? ないのよ!?」


 あからさまに動揺して見せるティアナに、テレサは笑う。

 しかし、ティアナはすぐに動きを止め、眼を伏せた。


「本当に、なんでも無いのよ」

「ティアナ?」


 ウェダーを握る力を強め、取り繕うように笑う親友に、テレサは眉を顰める。

 そしてテレサは、どうしようもないと言いたげに、息を吐いた。


「ティアナは、本当にこういう事に関しては、ダメダメよね」

「なっ!? テレサまでそういう事言うの!?」

「私まで?」

「……さっき、ドレット先生にも同じことを言われて」

「あぁ、だからウェダーを持っているのね」


 合点がいった、とテレサは手を叩く。

 乱れたティアナの髪を、テレサは優しく撫でる。


「ティアナはきっと、永遠に単位取れないわ」

「何それ!?」


 フフフ、と笑うテレサに、ティアナは頬を膨らませる。

 テレサから顔を逸らし、ウェダーを開けたティアナは、一思いにゼリーを吸い込んだ。

 自分の魔力に反応があるのを感じながら、ティアナは眼を細めた。


「……美味しくない」




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